なぜ「トヨタ×NTT提携」、実は「必然」な深い理由

NTTと資本・業務提携したトヨタ自動車・豊田章男社長(左)(撮影:風間仁一郎)
「NTT(日本電信電話)との提携は必要不可欠であり、ある種、必然だったとすら思っております」
2020年3月24日に開かれた合同記者会見の席上、NTTと業務・資本提携したトヨタ自動車社長の豊田章男氏は、そう語った。
トヨタはこれまで、KDDIとの通信プラットフォームの構築や、ソフトバンクとの共同出資会社モネテクノロジーズによるMaaS(マース=サービスとしてのモビリティ)プラットフォームの構築など、通信会社と深い関係を築いてきた。今回、トヨタはなぜ、NTTと提携するのか。それはなぜ、必然なのか――。このたび新刊『豊田章男』を上梓した、片山修氏がその意図や背景を読み解く。

スマートシティプラットフォームの構築

トヨタとNTTが目指すのは、「スマートシティプラットフォーム」の構築だ。移動はもちろん、水道や電気などの公共サービス、医療など、あらゆるインフラやサービスを効率化したスマートシティを支える社会基盤をつくる。MaaSより、さらに大きな概念だ。

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トヨタは、2017年以降、NTT本体に加え、NTTデータ、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズと、コネクティッドカー分野での技術開発・技術検証およびそれらの標準化を目的として、共同で研究開発を進めてきた。今回、2000億円の相互出資という資本提携にまで踏み込んだのは、スマートシティプラットフォームという大きな構想に、時間をかけてじっくり取り組むという互いのコミットメントと見ることができる。

NTTは、昨年、新ネットワーク構想の「IOWN(アイオン=Innovative Optical & Wireless Network)構想」を掲げた。

5G(第5世代移動通信システム)の先にある次世代コミュニケーション基盤で、2030年代の実現を目指す。2020年春にもアメリカのインテル、ソニーと「IOWNグローバルフォーラム」を設立予定で、アメリカのマイクロソフトやベライゾン、台湾の中華電信など約120社が参加検討中という。

「トヨタもIOWNグローバルフォーラムに入っていただく動きで、新しい研究も両社でやれるものをやっていきたい」

と、会見の席上、NTT社長の澤田純氏は述べた。

近年、半導体の集積度が約2年ごとに2倍になるとする「ムーアの法則」の限界が指摘されているが、スマートシティプラットフォームを構築するには、膨大なデータをリアルタイムに処理する必要がある。従来の電気によるデータ処理では、対応しきれない。

NTTが取り組むIOWNは、発信元から受信先まですべての通信を光でつなぐオールフォトニクス・ネットワークによって、現状よりもはるかに高品質・大容量・低遅延、かつ低消費電力の通信を可能にする。

加えて、現実世界を構成するモノや人などをサイバー空間に再現し、それらを組み合わせて高度なシミュレーションを行うデジタルツインコンピューティングなどによって、未来予測が可能になるという。

ただし、NTTは、データの収集から蓄積、分析、最適化などの技術は持っているが、データを生み出すハードウェア自体はほとんど持っていない。

その点、トヨタはハードウェア、すなわちリアルの世界を持っている。しかも、具体的なまちづくりの構想をスタートさせている。「ウーブン・シティ」がそれである。

ウーブン・シティの可能性

豊田氏は今年1月、アメリカ・ラスベガスで開催されたCES(デジタル技術見本市)で、静岡県裾野市にあるトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地に、ウーブン・シティと呼ばれるスマートシティの建設を発表した。