『10年後に食える仕事 食えない仕事 AI、ロボット化で変わる職のカタチ』(東洋経済新報社)の冒頭で、著者の渡邉正裕氏はイギリスの経済学者ケインズが1930年に残したことばを引き合いに出している。
「100年後、人類は歴史上初めて、余暇をどう楽しむかを悩むようになる」というものだ。技術が進歩し、人間はごく短時間だけ働けばこと足りるようになるため、労働から解放されて時間を持て余すという予測である。
ところが2030年を間近に控えた現在、日本人の現状はケインズの予測とはほど遠いものになっている。
なにしろ超少子高齢化、経済のグローバル化、求人側と求職側との受給ギャップなどさまざまな問題を抱えているのだから、今後も「働き手不足」が加速することは間違いない。
そして今後はさらに、60代以上の高齢者が労働市場に駆り出されることになるだろう。外国からの労働者のサポートを受けながら、なんとか社会を維持できている、という状況になる可能性が非常に大きい。
そこで本書では、今後の仕事のあり方やニーズ、その渦中にあるわれわれが選択すべき道などについて包括しているのである。ちなみに渡邉氏は、ニュースサイト『MyNewsJapan』(mynewsjapan.com)のオーナーでもある編集長、ジャーナリスト。
そうした明確な目的があるからなのだろう、内容はこちらの予想以上に具体的だった。
まずは“「人間の強み」が不可欠な仕事の条件”が提示され、次いで“「AI・ロボットの強み」が活かせる仕事”を紹介。以後、各エリアの職業と特徴、障害と変化のスピード、「消える仕事」と「消えない仕事」、仕事の選び方などが解説されていく。
だから読者は、自分の力量や目的と照らし合わせながら読み進めていくことができるのだ。ここではそのなかから、第6章「仕事をどう選び、シフトするべきか」をクローズアップしたい。
これから仕事選びを行うことになる10代の学生や、転職に直面して今まさに迷っている20~30代に対し、AIやITの視点からアドバイスを試みた章である。ただしここに書かれていることは、世代を超えた普遍的なものだと個人的には感じた。
これからの仕事選びについての、渡邉氏の考え方は非常に具体的だ。「デジタル・ケンタウロス(『下半身が機械、上半身が人間』のイメージ。すなわち『AI+人間』のポテンシャル)」か、「職人プレミアム(技能集約的な職業のうち、『人間が行うことに積極的な付加価値が生じるもの』)」の分野で、手に職をつけることが大切だというのである。
現場において、この2つの分野で仕事をしている人は計34.2%にすぎないというが、特徴的なのは、中核的な業務においてAIに仕事を奪われる心配がないこと。それどころかAIをツールとして活用することで、より高い報酬と安定雇用を得られる可能性が高まるという。
ちなみに上記の図は、さまざまな職業の賃金推移見通しを示したものだ。まず左半分は、ソフトウェアや機械などのテクノロジーに代替され、人間の需要が減っていく領域。そのため、賃金水準の向上は見込めないということになる。