こうした特徴を踏まえて、人事や上司の“ぼやき”に注目してみると、上の世代が感じている印象とは違った見方ができる。
例えば、「やたらと理屈っぽく、『これって意味あるんですか?』が口癖」という意見。上司からすれば、まだ一人前に仕事を任せられる訳でもないのに、あれこれと理由を求める前にまずは仕事を覚えてほしいと思ってしまう。その気持ちはわからなくもないが、彼らは決して屁理屈をこねている訳ではない。
社会を揺るがすような未曾有の大災害を多感な時期に経験した彼らは、「人や社会の役に立ちたい」という気持ちが強く、目的意識を持って仕事に向き合おうとする人が多い。裏を返せば、人や社会のためになっているという意味が見いだせなければ、会社を辞めてしまいかねない。だからこそ、上司は仕事を渡すときに目的の明確化や意味づけをすべきだろう。
こうした社会貢献意欲の高い人たちは、Z世代以前は“意識高い系”と呼んだ時期もあったように、どちらかと言えば浮世離れした存在だった。なぜなら、個人の日常生活や目の前の仕事と、地球温暖化・人口減少といった社会課題は、とても遠い出来事だったからだ。
しかし、Z世代はそうではない。TwitterやInstagramのタイムライン上には、日常の出来事と並列で世界のあらゆる問題が飛び込んでくる。彼らの必需品であるスマートフォンの中では、オーストラリアの山火事も、友達が誰と付き合った別れたという話も、等しく同じ“情報”として表示される。だからこそ、Z世代にとって社会課題や国際問題は上世代が感じているよりもずっと近い距離にある。
Z世代のこの価値観は、これからの時代の企業活動においてむしろ必要な観点だ。例えば、2018年に1枚のウミガメの写真から世界的な規制へと動いたプラスチック製ストロー。仮に法的には問題がなかったとしても、企業が自社の利益だけを追求して(環境への影響を無視して)プラスチック製品を使い捨てにし続けることは、もはや消費者から賛同されず不買運動すら起こりかねないだろう。
特にZ世代は、ブランドよりも社会貢献性で商品・サービスを選ぶ傾向が強く、そのアンテナは敏感。昨今企業でも重視されはじめた「持続可能性」でものごとを見るモノサシが備わっている彼らは、非常に貴重な戦力だといえる。
また、「好きな仕事はやるけれど、興味のないことには手をつけない」「コスパ重視で仕事とプライベートをきっちりと分けすぎる」といった評判もよく聞こえてくる。しかし、これらも見方を変えるとZ世代の強みだと言えるだろう。
「好き」を追求する人が多いのは、多様性を尊重する時代環境の中で育ったからこそ。同調圧力に屈せず自分の意見を主張することは、とりわけ日本では上の世代が苦手としてきたことであり、弱点を補ってくれる存在にもなりえる。
また、人それぞれ好きなことや得意なことが違っていいという価値観は、まさしく労働人口減少時代に求められているダイバーシティ経営に通じること。多様な人たちが集まる組織で働くうえでは必須の考え方だ。
そして、上司から見れば「コスパ重視」だと感じられるのも、これと決めた目的を最短で実現したいからこその印象だろう。デジタルネイティブの彼らからすれば、“コピペ”で済むならそれでいい。わざわざ文字に書いて説明するより、写真を撮って送ったほうが早い。それが失礼だとか、前例がないからといった価値基準でものごとを見ておらず、ある意味で非常に理にかなった方法を取ろうとしているのだ。
こうした動きができる人は、目的を実現する力が高いとも言えるし、従来の常識やしがらみに縛られず、自由な発想ができる人でもある。やはり、10年20年と似たような環境にいる上の世代からすると、慣習を前提に考えてしまう癖がついて抜け出せない場合も多い。その意味で、まったく異なる価値観・視点をもつZ世代は、組織に新たなアイデアをもたらしてくれる存在、イノベーションのヒントをもたらす存在にもなりえるはずだ。