新型コロナウイルスの被害が世界規模で広がっている。これに伴い、多くの企業が、在宅勤務を急遽導入する事態に至っている。
在宅勤務は、「働き方改革」の重点施策の1つとして政府も積極的に導入支援を行ってきており、この数年で導入した企業の事例を目にする機会が増えた。しかし、準備を重ねた企業が導入する在宅勤務とは異なり、今回は「従業員の健康を守る」ことを目的に、待ったなしの状況の導入に戸惑う企業や従業員も多数存在しているはずである。
そこで今回は、職場という物理的な空間・時間を共有せずに仕事をすることが、従業員のやる気や生産性にどのような影響を与えるのか、企業側の対策として何を検討すべきなのかを考察する。
在宅勤務をめぐる近年の議論で多くの人の記憶に残っているのは、アメリカ・ヤフーのケースだろう。2013年に当時のCEOマリッサ・メイヤー氏が在宅勤務を禁止し、オフィスで働くことを求めたことが大きな話題となった。
そのメモの中で、メイヤー氏は「最善の意思決定や考えは、廊下やカフェテリアでの話し合い、新たな出会い、緊急会議などから生まれる。在宅勤務は業務の品質やスピードを犠牲にしている」と伝えたという。この方針は、オフィスに来ることがまったくなかった従業員200人を対象にしたものであり、低下していたモチベーションを引き上げるための施策だったが、ヤフーのような「先進的な企業」ですら、在宅勤務を全面的に推奨するわけではないとして注目された。
さらに、その後2017年3月にはアメリカ・IBMが在宅勤務をする数千人の従業員に対して、オフィス勤務を命じたと報じられた。正確には、在籍するオフィスを定めず、自席を持っていなかった従業員に対して、特定のオフィスに在籍させ、席を割り当てたということだった。
しかし、フルで在宅勤務していた従業員にとっては、オフィスに出社して働くという大きな変化であったことには違いない。この変更の目的は、迅速な意思決定を実現させるためだったという。在宅勤務が企業にとってメリットだけをもたらすものではないことを示唆するような事例は、ヤフーやIBMだけにとどまらない。
つまり、在宅勤務をうまく機能させるためには、もともとクリアすべきハードルが存在することを意味する。ましてや今回のコロナ対策としての在宅勤務の導入では、事前に準備する間もなく、走りながら舵取りを調整しなくては、生産性の低下などの懸念が現実のものとなる可能性があるといえる。
改めて、一般論としての在宅勤務によって、働く環境がどのように変化するのか、その期待される長所および懸念される短所を整理してみよう。
もともと働き方改革における「テレワーク」は、生産性を引き上げる効果があるものとして奨励されている。しかし、実際は一筋縄では行かず、会社のほうが、機器・ツール、情報へのアクセス、ほかの従業員との連携などの観点から就労環境として整備されていて、生産性が高く働けると感じる従業員も少なくないだろう。