楽天が「送料無料化」めぐり混迷を極めた背景

友の会は2月末にメンバーで三木谷浩史社長とのテレビ会議を持ったといい、関係の近さがうかがえる。彼らが、新型コロナウイルスの感染拡大による人手不足を理由に一律無料化の延期を訴え、楽天が従ったというタイミングと相まって「公取に緊急停止命令を取り下げさせるための口実として“シンパ”を利用した」と言われてしまうのも無理はない。

このように賛成派、反対派をめぐって真っ向から意見が対立した送料一律無料化問題だが、筆者は今後の公取の出方に注目したい。

そもそも、楽天の送料一律無料化はアマゾンとの対抗策として打ち出されたものだった。楽天は2019年1~12月期連結決算の売上高が1兆2639億円。そのうち楽天市場などのインターネットサービスセグメントは約6割を占める。

対するアマゾン日本法人は1兆7440億円(2019年の平均為替レート1ドル=109円で換算)とすでに大きな差が開いている。アマゾンの世界全体での売上高は30兆5745億円で、ここからすれば日本事業はたったの6%程度にすぎないにもかかわらずだ。

「世界中がアマゾンの箱で埋め尽くされる」という三木谷氏の問題意識も正しい。楽天との力の差が歴然としているわけで、どうやってしぶとく生き残っていくかを考えざるをえないからだ。

そういう意味では、送料無料化というわかりやすさを打ち出すことについてこれない「弱い」出店者を切って、優良な出店者だけでやっていきたいという三木谷氏の狙いは理解はできる。

ただ、拙速すぎる点もいくつかあった。ユニオンの言い分にもあるように、規約を突然変更し、出店者側の負担が増すことをなかば押し付けたこと。「送料無料ライン」という施策の呼称を公取対策もあり「送料込みライン」と言いかえても後の祭りだったこと。これでは、支持を十全に得られない。

公取がどのような判断を下すのか

楽天は5月に改めて方針を打ち出す見込みだ。ここで公取が強く規制する姿勢を見せれば、ただでさえ対アマゾンで“弱者”の楽天には打撃となり、EC市場での地位はますます低下する。近年は欧州を皮切りにGAFA規制の動きが強まっているが、公取が身を乗り出すほど、国内企業として成長途上の楽天のような「弱者」を結果的にたたくことになりかねない。

楽天ユニオンは年内をメドに、楽天だけでなくアマゾンやヤフーなどほかのプラットフォーマーも対象とした出店者による協同組合を立ち上げるとしている。公取の判断いかんによっては、プラットフォーマー側が規約変更することは出店者の完全な同意がなければ不可能になるという懸念もある。どこまで踏みこんだ判断を公取がするのか注目だ。

近代までの領主による分割統治の狙いは被支配者同士を争わせ、矛先が統治者に向かないようにすることにあった。ただ領主であったはずの楽天も、公取やアマゾンなどと戦っていかなければならない状況に追い詰められている。

三木谷氏が何が何でも実施すると意気込んでいた送料無料化。ここでつまずいてしまった楽天は難しい判断を迫られている。