2019年、映画業界は今までにない活況を呈していた。
興行収入は2000年以降ではもっとも多い2611億円を記録。「天気の子」や「アナと雪の女王2」など、興行収入が100億円を超える大ヒット作品が4作も生まれ、充実の1年だった。
だが、そんな映画業界に「新型コロナショック」が暗い影を投げかけている。
東映会長で映画製作者連盟の岡田祐介会長は「今年は(洋画・邦画ともに)目玉になる作品が少ない。(2019年を上回る興行収入は)大変難しい」と話す。
というのは、大ヒット作の豊作に恵まれた2019年と比べ、興行収入の100億円超えが確実視される作品が少ないからだ。2020年は「天気の子」や「君の名は。」を手掛けたヒットメーカー・新海誠監督の映画もなく、「トイ・ストーリー」など知名度抜群のディズニー人気作品も少ない。
もともと厳しい状況が想定されていた中、追い打ちをかけているのが新型肺炎の影響だ。
岩波ホールや早稲田松竹などの小規模映画館は、感染拡大防止を理由に3月13日までの休館を決定。スクリーン数660(2020年1月時点)を抱える大手シネコン、TOHOシネマズなどでも、体調不良や来場を控える観客に対してチケット代金を払い戻すと発表した。
東急レクリエーションが運営する109シネマズでは、感染拡大防止策として3月6日以降、原則1席ずつ間隔を空けてチケットを販売すると発表した。
さらに、ディズニー映画の3月13日公開予定だった「2分の1の魔法」や4月17日公開予定の「ムーラン」など、新作2本の公開延期も発表されている。そのほかにも「映画ドラえもん」などの延期が判明しており、春休みの子ども向け映画が大きな影響を受けている。
ある映画会社関係者は「(前作の興行収入が邦画5位と)春休みの目玉だった『ドラえもん』の公開延期は、映画館にとって影響が大きい。客足が遠のいている実感もある」と吐露する。
映画の配給は製作委員会に参加している複数社によって意思決定されるため、1社の判断だけでは公開延期はできない。それだけに大きな決定だったことがうかがえる。
新作映画の公開が延期されれば、コストも増加する。東宝の広報担当者は「新作映画が公開延期されれば、宣伝をやり直す必要や空いた枠を埋める必要もあり、影響は少なくない」と語る。そうしたコスト増加に加え、延期された作品が公開されたとしても、春休みなどかき入れ時を失えば、機会損失が発生する。
2020年の業績見通しについて、「影響の大きさはまだよくわからない」(東映広報)、「春休みシーズンで来訪者の多い3月が大きな影響を受け、前年比で客足は大きく落ち込んでいる。(長期化の可能性もあり)まだ影響は見通せない」(松竹広報)などと異口同音に話す。
今後、焦点となるのはTOHOシネマズなど規模の大きい映画館が休館に踏み切るかどうかだ。商業施設などに入館する映画館も多くあり、「自社の判断で一律の休館にすることはできない」(先述の映画会社関係者)。
しかし、政府などの方針次第では一気に休館へと突き進む可能性もありそうだ。