働き方改革で消耗していく「中間管理職」の悲劇

ほかのメンバーはアディショナルタイム(=残業時間)を前に競技場をあとにしてしまうし、監督たる経営陣は、最終的な試合の勝ち負け=業績ばかり見る……。これでは、キャプテンの心労たるや推して知るべし、である。しかも、メンバーと比べた年俸=賃金水準はここ数十年ずっと下り坂だ。

人事は管理職のスキルが足りないと感じている

3つ目に指摘できるのは、人事サイドの発想が、この状況をさらに悪くしているということだ。

さまざまな組織課題に直面した人事の多くは、先程のような期待感のもと、管理職の「個々のマネジメント・スキル」を向上させることで対応しようとする。「人事側が感じる自社の中間管理職への課題感」のトップは、「マネジメント・スキルの知識・スキルが高まらない」というものだ。

「スキル開発」と言えば聞こえはいいが、こうした発想の裏にあるのは、なにか組織課題が発生するたびに「今のマネジャーではスキルが不足しているがゆえに課題に対応できない=スキルを上げよう」という短絡的なロジックだ。そして、こうした課題感を持っている企業では、人事が管理職への「研修によるスキル開発」をより多く実施していることが調査からもわかっている。

確かに、時代に応じたマネジメント・スキルの向上やマネジメントスタイルの変化は必要だ。しかし、組織課題のすべてをマネジメント・スキルの変革で乗り切ろうとするのは限界といえるだろう。

サッカーの例えで続けるのならば、チームが弱いからと言ってキャプテンに「筋トレ」ばかりさせるようなものであり、それで試合には勝てるほどいまの市場は甘くない。今の管理職の窮状には、組織全体を見据えた構造的なサポートや戦略が必要だ。

では、この「受難」の時代をどう乗り切るべきだろうか。まず企業側は、今後も新たな課題が降ってくるたびに、管理職負担が増えていくインフレ構造をどこかで断ち切るのが先決だ。企業は、「働き方改革」「コンプライアンス」「ダイバーシティー」「組織開発」といった個々の組織・経営課題を、すべて「マネジャー頼み」「マネジメント・スキル頼み」にすることを避けるべきだろう。

次に、現状の管理職が置かれているコンディションの正確な把握からスタートするべきだ。長年の組織運営で、管理職の役割が自然に増えている場合が多い。①労働時間の面、②担っている役割の面から、現状を正確に把握したい。

その一方で中間管理職本人も、すべて自分で「背負い込む」ことをやめることが、この時代を生き残るための第一のサバイバル術だ。

マネジメントの役割は、「オペレーション・マネジメント」と「ピープル・マネジメント」とに大別できる。前者は計数管理や進捗管理・全体の業務運営であり、後者は、部下の動機づけ、育成、教育だ。複雑化したビジネス環境と働く価値観の多様化によって、ともに難度を増している。

組織外のリソースも活用を

オペレーション・マネジメントは、ITツール活用で負担を軽減できる部分が大きい。幸い、ICTの発展によって、業務管理のツールはすでに多く存在する。チャットでの情報連携やマニュアルの進捗管理、書類のデジタル回覧など、補助してくれるツールを、事業部・チームといった小さな単位であっても、積極的に投資するべきだろう。

ピープル・マネジメントは、組織内の「人」を頼れる部分だ。今の管理職は、経験豊富なシニア社員が部下にいることも多い。彼ら彼女らに自分がケアできない若手の話を聞いてもらうなど、「右腕」的に頼れる部分はある。上司部下以外のメンター制度や、外部のキャリア・カウンセリングの積極的利用も選択肢としてあるだろう。

日本企業には、リソースやノウハウが不足していても自社でなんとかしようとする自前主義的な傾向が見られるが、これからの管理職も、自前主義に陥らず、組織外を含めた周囲のリソースをいかに活用できるかが肝になってくるだろう。

管理職にも、一人ひとりのキャリアがある。目の前の仕事を回すのに必死な状況では、新しいスキルの蓄積もできず、自分の将来を考えるための余裕も生まれない。出産や育児とのバランスをとるのも難しく、女性管理職や男性育休の推進といった今日的な課題とも折り合いが悪い。中間管理職が、これからも組織運営の要であり続けるためにも、働き方改革によって起こっている「管理職の地盤沈下」を防がなくてはならない。