新型コロナウイルスの猛威が日本や韓国、イタリアなど世界中に及ぶなか、中国のテック企業から革新的なイノベーションが続々と生まれている。
中国のAIユニコーンである曠視科技(メグビー)は、地下鉄など公共施設での感染者スクリーニングを効率化するために100人の研究開発チームを編成。従来の赤外線センシング技術に顔認識技術などを組み合わせた、AI体温測定システムを開発した。
同システムは、3メートル以上(一般的には5メートル以内)先にいる人の体温を測定できる。人混みのなかから高体温の人を発見し、身体や顔の情報に基づき、AI技術を活用して識別する。発熱を疑われる人がいれば、アラームですぐに知らせる仕組みだ。
メグビーによると、最大で毎秒15人を識別可能で、1つのシステムで16の通路を網羅。マスクや帽子で顔が隠れていても識別でき、誤差はプラスマイナス0.3℃に抑えられるという。
担当者は、このプロジェクトは北京市の(北京大学などがある)海淀区や(IT企業が集積する)中関村エリアの科学都市管理委員会によるもので、海淀区の役所や地下鉄の牡丹園駅で実施されていると語る。
同システムを活用すれば、スクリーニングに必要なスタッフは1人だけ。最前線で働くスタッフの感染リスクを引き下げることができるのだ。呼吸器および危重症医学科の馬兵医師は、「この新しい技術は、公共エリアでのスクリーニング効率を高めるうえで大いに役立つ」と評価する。
感染者を把握するためのテクノロジーはこれだけではない。
中国最大のインターネットセキュリティ企業である三六零安全科技(360公司)は、「新型コロナウイルス患者同行程照会ツール」を発表した。
自分が利用した地下鉄や飛行機などの日時と便名、エリアを入力すると、同じルートに感染者がいたかどうかがわかる。このツールは、自分や周りの人々にウイルスが潜伏しているかを知るうえで参考になる。すでに正式に稼働しており、毎日更新されている。
中国EC最大手、アリババグループ系の電子決済アプリ「支付宝(アリペイ)」は、新型肺炎に関する中国各地のリアルタイム情報や中央テレビの報道を確認できるだけでなく、オンラインで寄付や問診、薬の購入もできる。
360公司のような「患者同行程照会ツール」も備えるほか、厳しい外出制限によって従来どおり学校に通えない家庭向けには、「在家学」というオンライン学習カリキュラムを提供中だ。
オンライン学習プラットフォームのVIPKIDも、4~12歳の子どもを対象に、オンライン学習カリキュラムを2月10日から順次、無償で提供している。科目は英語と数学で、カリキュラム数は150万だ。なお同社は、アリババに並ぶ中国IT大手のテンセントなどから出資を受けており、イギリスのオックスフォード大学出版局とも提携している。
医療機関を支えるテクノロジーも続々登場している。
北京の亮亮視野科技(LLVISION)は、武漢市中心病院や鄭州市第二人民病院などに対し、ARグラス「GLXSS」とオンライン医療システムを合計25セット寄付した。
診療所やクリニックの医療スタッフはGLXSSを装着することで、遠方の専門家に対して現場の映像をリアルタイムに共有できる。声で指示を出せば写真撮影やカルテの取り出しが可能で、専門家とビデオ通話もできる。
5Gネットワークのもとでは、通信速度がボトルネックになることはない。救急車のなかでスタッフがGLXSSを使って病院の専門医師とリアルタイムのビデオ通話をすれば、救急患者を救える可能性も高まる。
スマートロボット・ベンチャーの達闥科技(CloudMinds)は、中国移動(チャイナモバイル)と協力し、武漢協和病院と同済天佑病院に5Gスマートロボットを寄付した。サービスロボットと消毒清掃ロボットだ。
チャイナモバイルの5Gネットワークのもと、サービスロボットは病院のロビーで案内をしたり、感染防止のための情報を発信したりする。消毒清掃ロボットは指定されたルートに沿って消毒清掃を行うだけでなく、感染エリア内で医薬品配送を担う。中国のSNSでは、「医療スタッフたちは連日の残業で疲れ果てている。ロボットが彼らの負担を軽減できれば」といった声があがった。
中国テック企業の取り組みが、コロナウイルスの蔓延に苦しむ一般市民や医療関係者を助けている。そのなかに日本企業が生かせるヒントがあるはずだ。