「PB商品」に棚奪われたメーカーの容赦なき逆襲

DtoCという選択により、メーカーは自由度の高い販売戦略が可能になった。このDtoCは、小さなメーカーでも、工夫次第で自社商品を人気商品に育てることが可能なのだ。

実際、小さなメーカーがヒットを出した事例も少なくない。例えば小さな水産加工場や農場、牧場が、自分たち独自で商品を開発し、それを自分たちで販売しているケースは少なくない。

大手メーカーは長く、多く売れるものを大量につくるが、小さなメーカーは短いリードタイム(製造に要する時間)で小ロットなものをつくって市場で売ることができる。

そうした商品はスーパーなどには並べることができないが、その価値を認めてくれる消費者がいれば、ECサイトでも十分に勝負できる。

まさにこれを体現した例として、楽天のサイトでの販売から始めて成長したヘアケアブランド「BOTANIST(ボタニスト)」が挙げられる。BOTANISTは、天然由来のボタニカルシャンプーのパイオニア的ブランドで、最高級シリーズでは1本4980円と高価な商品だが、一人ひとりに合わせたパーソナライズシャンプーとして人気がある。今はECだけではなく、ドラッグストアでも販売されている。

実際、TVを見ず、実店舗での買い物離れも進んでいるようなネットユーザーが好む、楽天やAmazonといったサイトで売れているブランドは、リアル店舗で売れているブランドとはまったく違う。つまり、リアル店舗の売り場・棚ではなく、ネット上に巨大な棚が存在し、そこにはまだ大手も手つかずの市場があるのだ。

アメリカでは個人がつくった商品が大ヒット

2015年に、ジェン・ルビオ氏とステフ・コーリー氏、2人のアメリカ人女性が企画したキャリーケース「Away(アウェー)」は、創業わずか2年で50万ケースを売り上げる大ヒット商品となった。

Awayの特徴は、「スマートフォンなどを充電できるモバイルバッテリーが内蔵されている」という点だ。モバイルバッテリーを持ち歩けば解決するかもしれないが、旅行中、荷物を詰め込んだキャリーケースを街中で開くのは面倒だ。しかし、Awayは外部に充電可能なUSB差込口があるため、そのような心配とは無縁で、移動中でも簡単にスマートフォンを充電できるようになっている。

Awayがヒットした理由の1つは、「旅行中にキャリーケースを開かなくてもスマートフォンを充電できる」という新しさで、若者の共感を得られたからだろう。ただ、このアイデア1つでこれだけの大ヒット商品になるとは考えにくい。重要だったのは、消費者の共感を得るための「ストーリー」だ。

このAwayが生まれたきっかけには、共同創業者のルビオ氏自身の経験があった。彼女がキャリーケースを買い換える際に、自分に合った商品が見つからなかったのだという。さらに、実際にキャリーケースづくりに取りかかるときには、1000人以上の聞き取り調査を行い、「こんなのが欲しかった!」という開発プロセスもストーリーに入れたこともポイントだろう。

「世界一の履き心地」といわれるAllbirds(オールバーズ)というスニーカーブランドにも、SNS上で誰かに語りたくなる「ストーリー」がある。

Allbirdsは、元プロサッカー選手でニュージーランド代表としてワールドカップへの出場経験もあるティム・ブラウン氏が2016年に開発したウール製スニーカーだ。

元サッカー選手の彼にとって、シューズはいつでも特別な存在だ。しかし彼は、合成素材のシューズではなく、天然素材のシューズがあったらいいなと思うことがあった。そこで、ウール製スニーカーの特許を取得し、クラウドファンディングサイトの「Kickstarter(キックスターター)」で募集をかけると、わずか4日間で約12万ドル(約1295万円)という資金が集まった。