市場成長が続く電子書籍で、ブロックチェーンを活用した新しい流通システムの開発が進められている。新システムで技術的に可能になるのが、電子書店がサービスを停止した場合の購入済みコンテンツの保護と、電子書籍の2次流通(中古売買)だ。
2018年度の電子書籍市場は3122億円(前年度比12.2%増)。このうち電子コミックが2387億円(同29.3%増)と8割を占める(インプレス総合研究所調べ)。電子雑誌の296億円(同6%減)、文芸・実用書・写真週など439億円(同10.8%増)となっており、電子コミックが市場成長を牽引している。
電子コミックでは、17年度には海賊版漫画サイトの「漫画村」が大きな社会問題となった。現在、サイトは閉鎖されて運営者も逮捕されたが、被害額は3200億円(一般社団法人コンテンツ流通促進機構の試算)に上るとされる。
しかし、海賊版サイトへの対策強化が奏功したほか、業界関係者からは「海賊版サイトは悪影響が大きかった反面、電子コミックを読む習慣が根付くきっかけとなった」との指摘もあり、その後の市場は高成長が続いている。
インプレス総合研究所の試算では、今後も電子コミック中心に電子書籍市場は年間5~8%の成長が続き、23年度には4610億円となる見込み。漫画村をはじめとする海賊版サイトによる被害を乗り越え、業界は健全さを取り戻してきている。
この成長市場で新しい流通システムの開発に取り組んでいるのが、電子書籍取次で国内首位のメディアドゥホールディングス。電子書籍取次とは、出版社等のコンテンツホルダーが保有する電子書籍コンテンツを預かり、自社のコンテンツ配信システムによって電子書店に取次販売、著作物利用料などの徴収・管理を仲介する事業者だ。
メディアドゥHDが現在開発を進めているのが、電子書籍の購入履歴のトラッキングや、購入者による中古売買を可能にする、ブロックチェーン技術を活用した新しい流通プラットフォームだ。
電子書籍では、コンテンツデータを売買しているわけではなく、ユーザーは購入先の電子書店との間でコンテンツの閲覧、表示など使用権の許諾を受ける形が一般的。そのため電子書店がサービスを停止した場合は、購入済みの電子書籍が読めなくなることもあった。
これに対してメディアドゥHDは、ブロックチェーンを使ってすべての取引履歴を記録しデータを永久保存することで、電子書店が閉鎖された場合もユーザーを保護する仕組みを構築。電子書籍に対する消費者の不安を軽減することで、市場のさらなる拡大につなげることを目指している。
「ブロックチェーンはデータを分散管理するために信頼性が高く、すべての履歴が残るために改ざんができない。暗号資産との親和性も高いため海外展開も見込める」(メディアドゥHD)と説明する。
また、このブロックチェーンを活用した流通システムで技術的に可能になるのが、電子書籍の2次流通(中古売買)だ。
同社の藤田恭嗣社長は2019年10月の中間決算説明会で「2次流通市場ができることで、新刊の購入が増えてマーケットの拡大につながると考えている。フリマサービスの浸透で2次流通市場が確立されている分野では、使い終われば売ればいいと気軽に購入する消費者が増えている」と発言。フリマアプリ「メルカリ」の登場でリユース品市場が拡大したように、業界全体の活性化につなげたい狙いを示した。