外交専門家の多くが民主党歴代政権の中に身を置いて、主流派の外交路線に携わってきたことを踏まえると、両者に支持が集まるのは、当然の流れとも言える。バイデン陣営では、オバマ政権期に国務副長官を務めたブリンケン(Tony Blinken)氏などが、ブティジェッジ陣営では、オバマ政権期に国務次官補(広報担当)を務めたウィルソン(Doug Wilson)氏などが、外交顧問として陣営の活動に携わっている。
これに対して、党内左派のサンダース氏とウォーレン氏については、外交専門家からの支持表明が相対的に少ない。サンダース陣営では、外交専門シンクタンクの中東平和財団で所長を務めていたダス(Matt Duss)氏などが、ウォーレン陣営では、ヴァンダービルト大学教授のシタラマン(Ganesh Sitaraman)氏などが、外交顧問として陣営の活動に携わっている。
しかしながら、外交専門家の支持を集める穏健派の2人が、外交論戦で攻勢に出ているかというと、必ずしもそうはなっていない。むしろここまでのところは、左派の2人のほうが精力的に外交関連の発信をしており、「プログレッシブな外交」の考え方が、民主党のスタンダードになりつつある争点もある。
また、この点と関連して興味深いのは、群を抜いて豊富な外交経験を持つバイデン氏が、これまで外交論戦を積極的に仕掛けてこなかったことである。すでに述べたように、トランプ政権によるイラン司令官殺害をきっかけに、バイデン氏も外交関連の発信を強化しつつある。ただバイデン氏の経歴を踏まえると、それまで消極姿勢を貫いてきたことは際立った態度であった。
こうした消極姿勢の背景として考えられるのは、党内で「プログレッシブな外交」が支持を広げ、豊富な外交経験が必ずしも「得点」とはみなされない、という民主党の現状である。とくに、上院議員であったバイデン氏が、対イラク軍事力行使容認決議(2002年10月)に賛成票を投じた過去は、主流派の外交路線の「失敗」を象徴するものとして、今もなお執拗な批判を受けている。
最後に、民主党候補が抱える、本選挙に向けた課題について、いくつか指摘してみたい。第1は、民主党の左傾化に伴うリスクである。
この点は、例えば、気候変動の問題に関して指摘できる。気候変動対策は、もともと民主党の中でも、左寄りの勢力が重視する案件であった。しかし今日においては、気候変動を「安全保障上の最大の脅威」とする見方が、民主党全体に浸透しつつある。この結果、2020年選挙に向けては、民主党候補が、競うように気候変動対策を有権者にアピールする格好になっている。
しかし、こうした民主党の現状については、有権者にアピールできる政策が必ずしも問題解決に資する政策でないとする声や、本選挙で不利に働くことを危惧する声が、一部から出ている。
第2の課題は、外交政策をめぐる党内亀裂が深まる危険性である。2020年選挙に向けて、民主党では、党内の結束を模索する動きが見られる。しかし、具体的争点を目の前にすると、有力候補4人の間でも、立場の違いが鮮明になる場面が多い。
例えばベネズエラ問題について、バイデン氏、ブティジェッジ氏、ウォーレン氏は、マドゥロ政権に対峙するグアイド暫定大統領を承認しているが(ただしウォーレン氏の承認は他の2人より遅い)、サンダース氏は承認を拒んでいる。
また、トランプ政権の発足によってアメリカが離脱した環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、「最善ではないがよき協定であった」とするバイデン氏に対し、他の3者は、現状では参加しないとの意向を強調している。この先、トランプ政権が揺さぶりを強めてくることも想定できるだけに、こうした党内の亀裂も、本選挙に向けた不安材料になりうる。