その結果、どうなるか? 人々はわざわざ買い物には行かなくなり、多くの実店舗は街から姿を消していくだろう。
「店舗離れ」の動きは、さまざまな方向で見られる。例えば「ウェブルーミング」だ。これは「商品探しをまずネットで行い、実際の購入は実店舗でする」という消費者行動を指す言葉だが、最近、そのようにして買い物をする人が増えているのだ。すでに、ネットショッピング購入経験者のうち半分以上は「ウェブルーミング」をしていると言われている。
「いくつも店を歩き回りながら商品を探すのは、疲れるし、時間ももったいないけど、ネット上の写真だけで決めるのも不安だ」
そう考えている人の多くは、ネット上で買うものをほぼ決めておき、最終的に実店舗で現物を見てから購入する。こうしたウェブルーミングのメリットとしては、「自分の目でちゃんと確認したものを入手できる」「その場ですぐに手に入る」「送料がかからない」といったことなどが挙げられる。
逆に、実店舗で商品を探し、ネットで購入する「ショールーミング」をする人も多いが、いずれにせよ、これらの消費行動が増えることで、従来の店舗の役割が奪われていることは確かなのだ。
このように、リアル店舗が存在する意義は薄まるばかりで、消費者の中には、単に「商品の受け取り場所」として店舗が存続してくれればいいという人も多いかもしれない。ただ、正直、店舗がその役割だけで生き残ることは難しいだろう。
では、ネット全盛の時代に「新たな役割を見つけて生き残る店舗」は、いったいどのようなものなのか? それは、一言で言えば、「体験型の店舗」である。
例えば、ネットで評判のカレー屋があっても、実際にその店に行かないと、「食べるという体験」はできない。焼きたてのパンを食べられるのも、パン屋だけだ。ネットで注文できるカレーやパンは、レトルトのものや冷凍のものに限られる。いちばんおいしいできたてのものを食べることは、「実際に行く」ことでしか体験できないのだ。
こう考えると、店舗の中でも「飲食店」は、もともと「食べる」というリアルの体験が前提となっているので、今後も生き残りやすいだろう(もちろん、もともと競争の激しい業界なので、店舗ごとに見れば厳しいのは変わらない)。サービス業も同様だ。美容室やマッサージ、スパ、エンターテインメント施設など、そこに行かなければサービスを受けられないものは、ネットでは代替が難しい。
確かに、「5G」をはじめとしたネット環境の向上、VR(バーチャル・リアリティ)の進歩により、近年はバーチャルながら「リアルに近い体験」を目指した技術開発もなされている。しかし、現時点ではそれらはあくまでリアルではない、バーチャルだ。
今、岐路に立たされている店舗は、小売店である。小売りの店舗は、飲食・サービス業の店舗ほど、「リアルの体験」を求められていない。消費者からすればモノが届けばいいので、現状のECサイトで十分に間に合うからだ。
こうした流れを早くに察知し、すでに店舗展開を大幅に変えている企業もある。例えば、世界的スポーツブランドのナイキだ。
ナイキが2018年11月にニューヨーク5番街にオープンした「ナイキ ハウス オブ イノベーション000(NIKE House of Innovation 000)」は、革新的な店舗として話題を集めている。
ここでは、ただスニーカーやウェアを販売するだけではない。そこにスニーカーの部位ごとに色をカスタマイズしたり、専門のスタッフと一対一で相談したりと、個人に合わせた「体験」を取り入れているのだ。一方で、購入時の面倒なやり取りは省略されている。ナイキのアプリで決済するため、レジに並ぶ必要はないのだ。