味の素「希望退職者募集」で考える会社員の行方

具体的には、再就職支援会社を活用して能力開発やカウンセリングをするだけではなく、転職支援によって次の職がみつかる人が増えたようです。ある大手の再就職支援会社では、転職活動を始めて半年以内で7割以上の人が再就職しているとのこと。

再就職を実現するための企業努力も進んでいるようです。例えば、自社独自で求人開拓部隊をつくり、求人情報が公開されていない企業に対して、シニア人材の受け入れを直接提案。新たな再就職機会の創出に力を入れるようになってきました。

さらに全国で公開されている求人をまとめて探せるシステムを開発。シニア人材を受け入れる求人を見逃さないようにするという活動の徹底ぶり。こうした企業努力を各社が行い、再就職の実現率向上、満足度の高い再就職が増加しているようです。

最大手であるリクルートグループによると、キャリアカウンセラーと求人開拓スタッフの連携で3カ月で59%、6カ月で78%の方が、納得度の高い再就職を実現しているとのこと。

また、そもそも40~50代のシニア人材の求人が増えたという、環境の変化も一因となっているようです。エン・ジャパンが転職コンサルタントに「これまでに50代以上を採用する求人を扱ったことがありますか?」と聞いたところ、95%が「ある」と回答。50代以上対象の求人増加を感じるか聞いたところ、79%が「増えている」と回答しました。

さらに求人が増えている企業タイプは「中小企業」(78%)が圧倒的。特定分野における専門性や豊富な経験を生かした即戦力として期待しているようです。このように、退職後の転職先探しにおいて、徐々に選択肢が増える状況になってきたといえます。

こうした状況も、企業が希望退職実施を決断できる要因の1つになっているのかもしれません。

投資家による株主提案も背景に

希望退職の募集が今後増えていくと考えられる理由はもう1つあります。それは株主利益の最大化を求める投資家が、希望退職を提案する事例が増えつつあるということです。

当社が関わったコンサルティング案件でも、アクティビストと呼ばれ、経営陣へ積極的に提言を行う集団から、大胆な早期退職を勧める株主提案を受けて苦慮する経営陣から相談を受けたことがありました。ときにこうした流れを“大義名分”として、会社が企業業績の好調なうちに、希望退職を検討する時代になりつつあります。

かつての日本企業では「企業は従業員のもの」という考えが強くありましたが、“株主優位”の流れが、希望退職の早期化を加速させているのかもしれません。

さて、こうした時代の変化を踏まえて、仮に会社が希望退職を始め、その対象に自分がなっていたとしたら……個人としてはいったいどうしたらいいでしょうか。

希望退職の対象になっても「会社にしがみつくべき」との意見をよく聞きます。ただ、本当にその選択しかないのか、新たな選択肢を探してみるのは無謀なことなのでしょうか。

人生100年時代、自分に新たなキャリア人生があるのであれば、どのような選択肢があるのか? 確かめてみようとする人もたくさんいます。

現在の職場での仕事、これまでの職場での仕事を踏まえて、自分にはいったいどのような可能性があるのか。今の仕事と今後の可能性、両方を天秤にかける機会として活用してみたり、自己分析を行えるツールを活用して自分の棚卸しを行ってみるのです。

管理系の仕事が長かったにもかかわらずサービス業の現場に向いているとか、営業系の仕事に向いていると思っていたが業務分析の仕事が適職であるなど、自分も気がつかなかった可能性がみえてくることがあります。

例えば、筆者が人事コンサルティングの仕事で、経営幹部の該当職務が適職であるかを分析する場合。思考・行動特性に加えて、仕事への興味から適職度を測るのですが、周囲から見ると適職に見える人が実は違っていたという場面に遭遇することがあります。