【日本にとっての悪夢も】韓国・尹大統領の弾劾訴追案に示された韓国人の日本観、メディアが報じぬ非常戒厳宣布の動機とは?

2024.12.09 Wedge ONLINE

 韓国の尹錫悦大統領が12月3日深夜、44年ぶりとなる非常戒厳を宣布し、世界中に大きな衝撃を与えた。戒厳はわずか6時間で終わり、尹大統領の弾劾訴追も否決された。いつもながら、ダイナミックな韓国政治を見る思いだが、事件がひと段落ついたということで、この事件の本質を振り返っていきたい。

非常戒厳を宣布し解除したことを国民へ謝罪する 韓国の尹錫悦大統領(提供:The Presidential Office/ロイター/アフロ)

スルーされている戒厳宣布した理由

 非常宣布とは、「戦争、事変または国家非常事態」に際して発せられるもの。韓国がそのような状況になかったことは明らかで、過去に戒厳が軍事クーデターに利用されたという歴史的事実があるため、与野党、マスコミ、世論は反尹錫悦一色になった。

 ただ、筆者が気がかりなのは、尹大統領が戒厳宣布した動機・理由が、ほとんどスルーされていることだ。

 戒厳宣布には、「反国家勢力による大韓民国体制転覆の脅威から自由民主主義、国民の安全を守る」とある。おどろおどろしい言葉が並ぶが、その辺の活動家が放った言葉ではない。日韓のメディアは、この動機・理由を妄想とハナから聞き流したが、一国の大統領が国民に呼びかけた言葉を無視するのは誠実な態度とは言えない。

 本来であれば、?反国家勢力とその脅威が存在するのか否か、?脅威が存在するのであればどのようなものなのか、?脅威に対して戒厳宣布という手段は適切なのか――の順で検証しなければならなかったはずだ。

 少しずつ状況が明らかになってくると、戒厳の目的が今年4月に行われた国会総選挙での不正選挙疑惑の解明にあったらしいことがわかってきた。

 他国に目を転ずると、ルーマニア大統領選にロシアが介入したことで選挙が無効になった。ロシアは米大統領戦、欧州連合(EU)議会選にも介入した疑いが持たれている。ロシアと軍事同盟を結んだ北朝鮮が韓国の選挙に介入していないとは言い切れないだろう。

 尹大統領が野党を反国家勢力と指弾した背景には、革新政党とその支持基盤である労組の幹部がたびたびスパイ事件などで逮捕された事実がある。つまり、尹大統領の目には北朝鮮に追従する野党と労組が不正選挙などを行って、体制を蹂躙していると映っているのだ。

 果たして、この認識は正しいのだろうか。実際に革新政党や労組が起こした事件を見てみよう。

北朝鮮スパイの関与

 最初に紹介するのは、野党・共に民主党の支持基盤の労働組合が起こした「民主労総スパイ事件」だ。2023年1月、国家情報院と警察は韓国最大規模の労組「全国民主労働組合総連盟」(民主労総)の幹部ら4人を逮捕し、一審で組織争議局長に懲役15年などの有罪判決が出された。

 局長らは、北朝鮮の指令を受けて労組活動を口実にスパイ活動を行い、中国やカンボジアなどで北朝鮮の工作員と接触していた。国情院が押収した北朝鮮からの指示書は90件におよび、歴代スパイ事件で最多となった。

 北朝鮮の工作機関「文化交流局」を「本社」、民主労総の地下組織を「支社」、局長を「支社長」と暗号名で呼びあい、金正恩総書記に触れるさいは「総会長」としていた。本社と支社の秘密連絡には、画像に情報を埋め込むステガノグラフィーを使ったり、無関係のYouTubeのコメント欄を利用したりしたことが明らかになっている。

 では、北朝鮮からの指示は、どのようなものだったのだろうか。22年の梨泰院ハロウィン事故に際しては、尹大統領退陣を求めるロウソク集会などを指示し、「これが国か」「退陣が追悼だ」など具体的なスローガンも指定。実際、民主労総が主催した追悼集会でこのスローガンが使われた。