イスラエル軍の無差別攻撃が激化するガザで、武装集団が国連などの人道支援トラックへの襲撃を繰り返し、食料や水を強奪する事件が相次いでいる。同軍が犯行を黙認しているもようで、パレスチナ住民は深刻な飢餓に直面している。しかし、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪で逮捕状を出されたイスラエルのネタニヤフ首相にガザの治安悪化を止める考えは全くない。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、ガザで11月16日、食料を運んでいたトラック109台が武装集団の襲撃を受け、98台が強奪された。この事件をはじめ、10月初めにはトラック100台が襲われ、80台が奪われた。この際、運転手4人が射殺されるなど犯行の凶悪ぶりがエスカレートしている。
犯行の多くはガザへの支援物資の搬入口であるケレムシャローム検問所から約3キロ付近で行われ、武装集団が道路を封鎖して待ち伏せしている場合がほとんどだ。国連によると、夏以降に強奪された物資は2550万ドル、日本円にして約40億円にも上っており、「世界国連食糧計画」が南部から搬入した食料支援の半分が盗まれたという。
ガザの政情はイスラエル軍の攻撃激化で、治安を維持してきたハマスの警察力が弱体化、2月ごろから急速に悪化した。支援トラックへの襲撃は当初、飢えに苦しむ住民らの犯行が多かったが、次第に組織的な犯罪集団によるものに変わった。特にイスラエル軍が南部ラファの検問所を閉鎖し、搬入口をケレムシャロームのみに限定したころから武装集団の強奪が横行するようになった。
武装集団の狙いは支援物資の缶詰などに隠されてエジプトから密輸されるタバコだった。タバコはガザの住民にとっては現金にも匹敵するような貴重品。現在は20本入り一箱で1000ドル(15万円)近くにまでは跳ね上がっているという。当初ギャング団はタバコ以外の食料などについては、そのまま放置していたが、トラックごと強奪し、闇市場で売却を始めた。
米ワシントン・ポストによると、ギャング団の黒幕はガザ南部やエジプトのシナイ半島に根を張るベドウィンの「タラビン部族」のヤセル・アブシャバブ一家。約100人の配下がいる。アブシャバブは襲撃を認めたものの、食料強奪は否定している。ハマスには長年抑えられてきた関係だ。
襲撃が行われたのはイスラエル軍の支配地域だが、問題は同軍が強奪を目撃しながら事実上黙認していることだろう。トラック輸送の安全を確保するよう求めた国連からの要請も無視したとされる。イスラエルはハマスに食料などが渡ることを恐れて支援物資のガザ搬入を渋ってきた経緯がある。
国連はイスラエル軍が武装集団の活動を“保護”していると疑っている。武装集団がハマスの復活を阻む勢力になることを期待する思惑があるようだ。
物資強奪の横行はガザの食料不足にとって最大の障害になっているが、人道支援関係者は「ガザはもはや無法地帯。特に北部の飢餓は深刻だ」と指摘している。ガザではイスラエル軍の攻撃で住民の犠牲は4万4000人を超えた。
ガザの最悪な人道状況を改善するにはネタニヤフ首相の意向にかかっているが、首相に停戦する姿勢は見えない。刑事被告人でもある首相は戦争が終われば、昨年のハマスの奇襲攻撃を探知できなかった責任を問われて辞任せざるを得ない。戦争を続けることで、政治生命を維持しているのが現状だ。
すでにハマスの軍事部門を解体し、ガザの指導者だったヤヒヤ・シンワルも殺害した。残った最大の課題は人質の解放だ。80人前後がなおハマスに捕らわれているとみられている。人質解放交渉をないがしろにしていると非難される首相だが、このほど、人質を解放した者に1人につき500万ドル(約7億7000万円)を支払うと発表したが、本気で解放に取り組んでいるとみる向きは少ない。