2024年10月28日付フィナンシャル・タイムズ紙で、ギデオン・ラックマン同紙コメンテーターは、核兵器を保有する北朝鮮がロシアの側に立って参戦するに至った今の状況を過小評価すべきではないと述べている。
ウクライナ戦争の最前線に北朝鮮軍が配備される状況を、ゼレンスキー大統領は「世界大戦への第一歩」と表現した。西側の安全保障当局は、ロシア、北朝鮮、イラン、中国からなる「敵対枢軸」間の協力の深化につき何カ月も警告してきた。北朝鮮によるロシアへの支援は、この枢軸が機能していることを示す証左だ。
4つの敵対国のうち、北朝鮮は西側から最も注目されていない。しかし、北朝鮮の専門家は前々から警鐘を鳴らしてきた。
本年1月には、ロバート・カーリンとジークフリート・ヘッカーが「金正恩は戦争に踏み切るという戦略的決断をした」とし、金正恩は米韓両国との対決政策を選んだと警告した。「北朝鮮は大量の核兵器を保有し、核弾頭は50~60発に達する可能性がある」と言う。
この1年で、北朝鮮の過激化の兆候は急増した。6月には、ロシアと北朝鮮が相互防衛条約に署名した。北朝鮮はまた、南北統一という最終的な目標を正式に放棄し、韓国を和解不可能な敵に指定した。ここ数週間のうちに、北朝鮮は南北を結ぶ道路を爆破した。
中国は、ロシアと北朝鮮の親密さが増し、両国に対する中国の影響力が低下することを不安に思っていると言われるが、中国は依然として北朝鮮の条約上の同盟国であり、北朝鮮をアジアにおける米国に対する重要な緩衝地帯とみなしている。中国は、朝鮮半島の緊張の高まりにより、米国が台湾を防衛することが困難になることも知っている。実際、米国では、朝鮮半島と台湾海峡で同時に紛争が発生する可能性を推測している者もいる。
残念ながら、西側は北朝鮮の能力を著しく過小評価する傾向がある。しかし金正恩政権は孤立しているにもかかわらず、核兵器の製造に成功した。
これは、イランやシリア等、より豊かな国々が達成できなかったことである。北朝鮮はまた、弾道ミサイルとかなりの攻撃的サイバー能力を開発している。
ロシア軍死傷者が60万人以上とされるウクライナ戦争で、北朝鮮の援軍が1万人いても戦況が一変するとは思えないが、北朝鮮には130万人の世界第4位の軍隊がある。
金正恩にとっての利益は、いまのところロシアからの技術移転と資金提供に集中しているが、金正恩は朝鮮半島での将来の紛争も見据えているのだろう。金正恩が欧州の戦争でロシアを支援した場合、ロシアはいつかアジアの紛争で恩返しをするかもしれない。
これらは、米国、欧州連合(EU)、韓国にとって非常に難しい問題を提起している。彼らはいずれもウクライナと朝鮮半島の両方で状況悪化の回避に努めてきた。しかしすぐに、ロシアが北朝鮮の支援を受けてウクライナを負かすことを許した後で欧州とアジアの安全保障情勢の変化について考えるか、それともウクライナに対する支援を大幅に強化して、敵対する枢軸国と対峙する覚悟を持つか、その選択を迫られることになるかもしれない。
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ロシア、中国、イラン、北朝鮮の「枢軸」が現に機能し、特に北朝鮮とロシアの協力の深化の世界的な意味合いに注意を向けるべきとの本件記事の指摘はその通りであろう。
確かに1万2000人という兵力はそれだけでは戦況に根本的な変化をもたらすとは考えにくいが、北朝鮮軍の派兵は今回で終了する保証はなく、また何よりも戦略的な観点から、ウクライナ戦争の世界的な安全保障への影響は少なくないだろう。