〈トランプ復権を喜ぶネタニヤフ首相〉緊迫必至の中東情勢、イラン核爆弾製造のリスクも

2024.11.08 Wedge ONLINE

 トランプ氏は1期目政権時代、パレスチナ自治政府の主力であるパレスチナ解放機構(PLO)のワシントン事務所を閉鎖し、パレスチナ援助も止めるなどパレスチナ人には厳しい。今回も「ガザで4万2000人以上が犠牲になっていることは気にしないだろう。パレスチナ人を助けても得にならないからだ。見捨てられるのではないか」(ベイルート筋)。

サウジを「アブラハム合意」に

 トランプ氏は2020年、娘婿で大統領上級顧問を務めていたクシュナー氏を使って「アブラハム合意」をまとめさせた。同合意はイスラエルと、敵対してきたアラブ諸国との国交を実現するというもので、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコ、スーダンの4カ国が調印した。これでイスラエルと国交のあるアラブ諸国は6カ国に増えた。

 トランプ氏は今もこの合意の拡大を目指しており、その狙いはアラブ世界の盟主にして、最大の富裕国であるサウジだ。イスラエルにとってもサウジとの国交は経済的にも大きく、実現すれば、中東地域での孤立からの歴史的脱却が実現することになる。

 サウジを牛耳るムハンマド皇太子とネタニヤフ首相はこれまでに秘密裏に会談したと伝えられており、ハマスの奇襲攻撃の直前までは国交が時間の問題とされていた。国交に対するサウジ側の条件は「イスラエルがパレスチナ国家への道筋を明確に示すこと」だが、パレスチナ国家に反対するネタニヤフ氏がどう譲歩するのかが焦点になっていた。

 ハマスが昨年10月7日のタイミングで攻撃に踏み切った最大の理由は両国の国交交渉が大詰めを迎えていたからだ。国交樹立となれば、パレスチナ問題が忘れられてしまいかねない。このため奇襲攻撃に踏み切り、国交をつぶしたというのが有力な見方だ。

 中東専門誌などによると、「アブラハム合意」にはトランプ一族のペルシャ湾岸での利権も絡んでいる。トランプ一族が経営する企業トランプ・オーガニゼイションは、合意後にオマーンでゴルフ場兼住宅建設のライセンス契約やサウジ西部の大都市ジッダでの高級ホテル建設契約を結んだ。クシュナー氏はサウジなどから巨額の資金を集めて投資会社を設立した。

トランプ・オーガニゼーションが開発を進めるサウジアラビアのジッダ(Ayman Zaid/gettyimages)

イラン、追い詰められれば核爆弾製造も

 トランプ氏復活を苦々しく思っているのはイランだろう。米軍は20年1月、イランの英雄だった革命防衛隊コッズ部隊の司令官ソレイマニ将軍をドローンで暗殺したが、その命令を下したのはトランプ氏だ。しかも核合意を一方的に離脱して経済制裁を強化した張本人だ。イランは核合意の再建を目指していたが、その目論見は完全に潰えた。

 トランプ氏は「アブラハム合意」の拡大を目指すとともに、合意に参加したメンバーでイラン包囲網を再構築したい考えだが、追い詰められたイランが核爆弾製造へ舵をきる恐れもある。イランは濃縮度60%のウラン生産を進めており、数週間で核爆弾2、3発を製造可能とみられている。トランプ氏の返り咲きは中東の緊張を一段と高めかねない。