米国はロシア軍の進軍を退けようとするウクライナにとって最大の支援国。これまでのバイデン政権下で武器、弾薬、防空システムなど総額60億ドル(約9兆円)以上の支援を行ってきた。
「米国第一主義」を掲げるトランプ氏はこうした民主党政権の姿勢に対しても反対しており、西側民主主義国の中でのウクライナへの軍事支援の米国の比重を下げたい思惑も見え隠れする。
トランプ氏は24年4月、米タイム誌のインタビューで、11月の選挙で当選してもウクライナへの軍事支援を続けることを努めるが、欧州諸国は「相応の負担をしていない」として、米国と同様に「自らの役割を果たさなければならない」と訴えてみせた。
さらに10月15日に発売され、米政界の内幕を描いた著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏の新作「War」では、トランプ氏とプーチン氏の個人的な関係も暴露された。
トランプ氏は21年の退任後もプーチン氏と最大7回、個人的な電話をしたとされ、コロナ禍が猛威を振るっていた20年には貴重な検査キッドを送ったという。
こうした過去の経緯からトランプ氏はロシアとの関係を重視し、ウクライナへの支援を停止することで戦争を終結させるのではないかという憶測が広がった。
しかし、一方で米共和党内には決して、ウクライナ支援をめぐっては一枚岩ではなく、ウクライナへの支援をさらに強め、ロシア軍を圧倒して「力による平和」をもたらすべきだという一派もいる。
その代表格がトランプ前政権時に国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏だろう。
ポンペオ氏は昨年3月にキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談を果たした。トランプ氏の相次ぐ親露的な発言の中で、ゼレンスキー氏はその右腕だったポンペオ氏のキーウ訪問を歓迎し、「自由と民主主義のために」戦っているウクライナ人への強力な支援のシグナルになると評価した。
ポンペオ氏は段階的にしか最新鋭兵器を供与しないバイデン政権の姿勢を批判。「私たちが全てを終わらせるだけの支援を提供できるにもかかわらず、それを行っていないことは悲劇だ」と述べた。
ポンペオ氏は今年10月にも、ロシア領内の軍事基地への攻撃を容易にするためゼレンスキー氏が求める長射程兵器についても、この要求になかなか応じないことは「軍事的に愚かであり、戦略的にバカげたことであるように思える」とバイデン政権を非難してみせた。
今回の選挙では議会選も同時に行われ、上院は共和党が多数派を奪還、下院でも共和党が伸長を果たし、トランプ氏の次期政権運営に弾みをつけている。
共和党は、バイデン政権下で決めたアフガニスタンでの米軍完全撤退を非難している。撤退後にタリバン政権が弾圧を強化し、人権擁護や民主主義が後退したからだ。共和党内にも、もし米国がウクライナ支援から撤退すれば、「民主主義の空白」が起こりかねないとの危機感があるのも事実だ。
こうした背景から、ゼレンスキー政権は米大統領選挙においても、共和党内への働きかけを強めていた経緯がある。ゼレンスキー氏自身も9月に国連総会へ出席するため訪米した際に、トランプ氏との面会を果たしている。
現地時間6日午前にゼレンスキー氏がトランプ氏への大統領当選祝福メッセージを出したのは、異例だった。この時点で欧州で祝福メッセージを表明していたのは、親露派のハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のみ。トランプ氏の強力な支援者だった米実業家、イーロン・マスク氏が運営する「X」での祝福表明は、まるで予定稿を用意し、あとはボタンを押すだけだったような印象を受ける。