米大統領選挙で勝利宣言した共和党のドナルド・トランプ前大統領に対し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、Xの公式アカウントに声明を出し、「見事な勝利を祝福する」と歓迎した。トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して友好的な姿勢を示すことで知られ、トランプ氏の勝利はロシア軍の全面撤退と領土回復を目指すウクライナにとっては不利との見方も根強い。しかし、共和党内にはトランプ政権時に国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏をはじめ、ウクライナへの軍事支援をさらに拡大し「力による平和」を目指す一派もおり、次期政権発足でウクライナの最大の軍事支援国の米国が今後、どのような決断を示すかが注目される。
トランプ氏は6日、米民主党候補のカマラ・ハリス副大統領との激戦を制した後、有権者の前で勝利宣言。その中で、2021年までの前政権時には「4年間、戦争はなかった」とアピールした。
そのうえで、民主党の一派が、トランプ氏が「戦争を始めるつもりだ」と言ったことを引き合いに出して、「私は戦争を始めるつもりはない。戦争を止めるつもりだ」とアピールした。
トランプ氏が言及した「戦争」とは、ロシア軍のウクライナ侵略で長期化している戦争も含むとみられる。
この発言で思い起こされるのは、これまでトランプ氏が何度もウクライナでの戦争を早期に終わらせると発言してきたことだ。
ロシア軍の本格侵略から1年が経過した23年3月には、テキサス州で行われた選挙集会で、ジョー・バイデン大統領はプーチン政権と交渉すらしないと批判。自分自身が4年前の大統領選挙で負けて、ホワイトハウスから「追放」された後に、プーチン氏はウクライナ国境に軍隊を投入したのだ、と持論を展開した。
そのうえで「私ならとても早く解決に持ち込む。24時間以内に解決するだろう」と語った。
同年7月には、米FOXニュースのインタビューに答え、さらにこの和平をもたらす計画の詳細を説明した。
トランプ氏は「私はゼレンスキー氏のことをよく知っている。プーチン氏のこともよく知っている。(ゼレンスキー氏よりも)さらに良く知っている。両社とも良好な関係を築いていた」と前置きした。
和平を達成するために、ゼレンスキー氏とプーチン氏に何を伝えるかと尋ねられると、「私ならゼレンスキー氏にこう言うだろう。『もう十分だ。合意を結ばなくてはならない』。プーチン氏にはこういうだろう。『もしあなたが合意を結ばなかったら、我々はゼレンスキー氏にたくさんのものを与えるだろう』と。必要であれば、我々はウクライナに彼らがこれまでに受け取った以上のものを与えるつもりだ。私は1日で合意を結ぶ。1日でだ」と答えた。
一見して、この発言はウクライナ寄りのようにも思えるが、トランプ氏はその後、政権復帰を目指す中で、具体的な詳細を語るのを避けてきた。その姿勢がさまざまな憶測を呼んだ。
そんな中で、トランプ氏が共和党候補としての地位を確立した今年4月、米ワシントンポストが特ダネを報じる。同紙は匿名の情報筋からの情報として、トランプ氏がウクライナに譲歩させる案を画策していると伝えた。
トランプ氏はブレーンらと話し合ったのち、ゼレンスキー政権に対し、14年にロシアの支配下に置かれた南部クリミア半島や東部ドンバス地域をあきらめさせ、ロシアに引き渡すよう促すのだという。
ゼレンスキー政権はロシアが本格侵攻を初めて拡大した支配下地域だけでなく、そもそもクリミア半島やドンバス地域からもロシア軍を追い出そうと激しい抵抗を続けている。ワシントンポスト紙が報じたような案であれば、ゼレンスキー氏がこれを拒絶することは目に見えている。さらにバイデン政権が取ってきたウクライナへの軍事支援政策も根本的に変えることになる。