作物転換ではない手法で、これまでの自民・公明の農業政策の転換になって、むしろ、欧州連合(EU)やアメリカ(不足払い)の農政手法と親和性があり、世界の潮流にも乗る格好だ。
なお、玉木雄一郎代表が言及している「家畜数に応じた支払い」は、EUにおいて、過剰飼育をもたらし失敗した例がある。また、EUの直接支払いは、市場価格への補償措置という位置づけから変化を続け、いまでは、農地の条件などに応じた地域支払い、気候変動への対応に応じた環境支払いに重点を移行中である。
立憲民主党、日本維新の会、共産党
立憲民主は、かつての戸別所得補償制度を農地に着目した制度に拡大強化、日本維新の会は、輸出を大幅拡大し、国内需要に合わせた生産からの切り替え、共産は、国家の介入・統制を強める公約を掲げている。
小里大臣が言及した「飼料用米生産を中心とした水田のフル活用」に大義はあるのだろうか。穀物が食用から飼料用まで品質・価格に応じてなだらかな傾斜で消費されていくのは、ごくごく自然なことである。
穀物は、およそ食品であり、エサであり、同時に工業用原料でもある。小麦、大麦、トウモロコシが、実際、多様な用途に用いられているのは、世界的に「ごく当たり前のこと」で、コメもその例外ではない。
どのような品質の穀物がどの用途でいくらぐらいの価格で出荷されて消費されていくのか。それを決めるのは、国ではなく、市場である。
他方、わが国のコメ価格については、「国産の飼料生産が足らない、主食用のコメが過剰であり生産調整が必要だ」との理由の下で、9割から10割近い国の助成の下、言い換えれば、「エサとしての品代はゼロ」に等しい歪められた価格形成で流通(契約)されているところに問題があり、その正当性、継続性、将来性が問われるのである。
やはり、<価格は競争で、所得は経営政策で>という石破農政プランや世界の潮流とはかけ離れている。自民党としての政策が色濃く出た形となっている。
国民民主の玉木代表は、農業政策を与党との協議の対象とする考えを示している。特に、食料安保基礎支払い(直接支払い)と水田活用直接支払交付金の要件見直しに意欲を示したという。実現させることができるのか。 直接支払い政策への転換に対する財源手当てであるが、現在コメの生産調整に充当している予算は、3500億円とも4000億円ともいわれているので、それを振り向ければ、財源的にも可能であると多くの専門家は述べている。
それができなかったのが、自民党の選挙における大票田と言われていた「農業票」の存在が大きいと思っている。いくら所得補償があったとしても、「価格は競争で」ということになれば、これまでとの変化や努力が求められる。高齢者の多い農家は、従来の制度を変えて欲しくないという保守的な考えも多い。
ただ、今回の選挙で、旧来型の組織票に依存する選挙活動は限界が見えてきたとも言える。実際に小里大臣は落選した。国民民主党の玉木代表の交渉と石破首相の決断に注目が集まる。