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10月9日、欧州議会においてオルバンも出席してハンガリーがEU議長国を務める7月以降本年後半の課題について議論が行われた。ハンガリーとブリュッセルの対立が要因で、時期が今にずれ込んだものらしい。
フォン・デア・ライエンはオルバンに続いて演説したが、オルバンに面と向かって遠慮会釈なく非難を展開したのは、ブリュッセルでオルバンに対する苛立ちが蓄積している現れかと思われる。その要因はいくつかある。
第一に、ロシアの凍結資産を使ったウクライナ支援である。10月9日、EU理事会はG7が合意した最大450億ユーロ(500億ドル)の対ウクライナ融資に対するEUの貢献分として最大350億ユーロの融資を行うことで合意した(今後、欧州議会の承認を要する)。特定多数決で合意を達成しハンガリーの拒否権を回避したが、ハンガリーはルール違反だと不満を表明している。
しかし、問題がもう一つある。それは、ロシア資産(大部分はEUの管轄下にある)の凍結というEUの制裁自体は6カ月毎に更新を要することになっており、そのような先行き不確実な状態では、G7による融資はロシア凍結資産が生む利子収益で償還されるという前提が崩れかねないため、米国が融資への参加の可否およびその規模を決め得ないとしている問題である。
EUは6カ月を36カ月とする解決策を目指しているが、この変更には全加盟国の賛成が必要とされている。問題は、ハンガリーが対ロシア制裁に関する米国の次期政権の方針を見極める必要があるとして、この決定は11月の大統領選挙まで待つべきだと主張していることである。妨害としか思えず、トランプの立場を慮っているとしか思えない。
第二は、フォン・デア・ライエンも言及しているが、ハンガリーのNational Cardと称するスキームである。就労許可が容易なビザのスキームのようで、元来、対象はウクライナとセルビアの市民が対象だったが、7月にロシアとベラルーシおよびバルカン4カ国にも拡大された。
欧州委員会は現下の地政学的な状況でロシアとベラルーシの市民を招き入れるロジックを疑問視し、そのシェンゲン圏全域に及ぶリスクを重大視しているようである。ハンガリーが中国の観光客の増加に対応するため、ハンガリーにおける中国警察のパトロールを認めることになった一件も甚だしく胡散臭く思われる。
第三は、「主権防衛法」である。法の支配などを巡るハンガリーとの緊張関係は長期間継続しているが、10月3日、欧州委員会は、この法律(2月に発効)は市民の基本的権利を犯すなどEU法に違反するとして、EU司法裁判所に提訴した。この法律は外国や外国の機関の利益のためと疑われる活動を調査する趣旨で、権威主義的体質の政権が好む種類のものである。
オルバンは演説の冒頭、「EUは変わる必要があり、本日はそのことについて諸君を説得したい」と述べたらしい。そうはならなかった。
議員が次々に立って、民主主義の後退とロシア寄りの立場を攻撃した。最大会派の欧州人民党を率いるマンフレート・ヴェーバーは、オルバンがウクライナに一行たりとも言及しなかったことに衝撃を受けたと述べた。
オルバンは非難に対し、「欧州委員会は権限を逸脱している。欧州委員会は『中立』で『条約の守護者』であるべきなのに、『政治的兵器』になっている」と主張したと報じられている。