今年9月、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで「ITS世界会議2024」が開かれた。ITS(Intelligent Transport Systems)とは「高度道路交通システム」と呼ばれ、かつてはカーナビや高速道路の自動料金収受システム(ETC)などを指したが、最近は自動運転や空飛ぶクルマなど新しい交通システムが注目されるようになっている。
この会議は米国、欧州、アジアの輪番で開催され、30回目を数える。通常なら今年は欧州で開催されるはずだったが、UAEが名乗りを上げ、初めて中東で開催された。背景には、世界から最新技術を導入し、モビリティー革命のリード役になろうというUAEの成長戦略がある。
「2030年までにドバイの交通機関の25%を自動運転にする」。ドバイ政府がスマートモビリティー戦略を打ち出したのはちょうど10年前の14年。その2年後には具体的な自動運転の導入目標を掲げた。以来、ドバイではコロナ禍においてもモビリティー分野での自動運転化が急ピッチで進み、今回の会議開催はその成果を世界にアピールしようという狙いが明らかだった。
展示会には日本からも自動車や電子部品企業などで構成するITSジャパンが「JAPANパビリオン」を開設、トヨタ自動車やホンダ、アイシン、デンソーなどは個別に出展した。会場では日本勢が約10の1の面積を占め、「日本のプレゼンス向上に役立てて嬉しい」とITSジャパンの山本昭雄専務理事は語る。
実はドバイのモビリティー戦略の実現には日本も一役買っている。クルマ社会で交通渋滞や環境破壊が課題のドバイでは09年に都市鉄道の「ドバイメトロ」を建設。その計画を三菱重工業や大林組などの日本企業が支えた。日本の鉄道技術が導入されたことで高速鉄道ながら東京の湾岸を走る新交通「ゆりかもめ」のような無人運行を実現している。
一方、空の交通ではトヨタや米デルタ航空などが出資する米国の電動垂直離着陸機(eVTOL)ベンチャー、Joby(ジョビー)アビエーションがドバイ政府と組み、26年から空飛ぶタクシーのサービスを開始する計画だ。
ジョビーが開発した「空飛ぶクルマ」は米軍のオスプレイと同様、プロペラの回転方向を上方と前方に変えられ、5人乗りで最高時速320キロを誇る。1回の充電で160キロを飛べ、埼玉県とほぼ同じ広さのドバイでは十分な航続距離だ。ジョビーの中東担当ゼネラルマネジャー、タイラー・トレロトーラ氏は「音も45デシベルとヘリコプターに比べはるかに静かだ」と強調する。
ドバイ政府は自動運転タクシーや電気自動車(EV)の普及推進にも余念がない。自動運転タクシーは道路や交通行政を担うドバイ道路交通局(RTA)とGMクルーズが高級住宅地のジュメイラ地区などでサービスを拡大、30年までに4000台に増やす計画だ。
EVはドバイのインフラ整備を担うドバイ電気水道局(DEWA)が「ペトロ(石油)からEVへ」を合言葉に14年から充電スタンドを整備し、400カ所に設置した。19年までの5年間は充電料金を無料にした結果、EVの販売台数は約2万台に増えたという。