その後もBBCは様々な問題に直面する。組織の官僚化や、ネットの登場、SNSへの対応である。BBCは時代の動きに合わせて巧みに変化を遂げてきたと言えるが、出演者の高額報酬批判や性加害をめぐる不祥事なども相次いで起きており、そのたびにBBCは公共放送としてのあり方を問われている。
一方、開局以来、英王室と密接な関係を築いてきた点はBBCの特徴であり、本書でも詳しく紹介される。映画「英国王のスピーチ」でも知られるジョージ6世が第二次世界大戦中に行った国民を鼓舞するスピーチや、エリザベス女王の戴冠式、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の結婚、そしてダイアナ妃のパリでの非業の死にいたるまで、英国民の前にはBBCが報じる王室メンバーの姿があった。
ダイアナ妃を単独インタビューした「パノラマ」のようにその取材や制作手法をめぐって謝罪に追い込まれた番組もあったが、BBCは常に王室に敬意を示してきた。2022年9月のエリザベス女王死去の際には手厚い報道を展開し、世界に注目された。
最近では日本のジャニーズ問題の告発とロシアのウクライナ侵攻への対応が注目された。ジャニーズ問題を扱ったBBCの番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』は日本でも放送され、英国のテレビ局が日本の芸能界のタブーを打ち破る画期的な内容となった。番組がきっかけとなり、社会問題として広く認識され、会社側が対応を迫られる方向に向かったことは記憶にあたらしい。
2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、英国政府がBBCに410万ポンドの緊急資金支援し国際報道を支援したことについても本書は言及する。ロシア国内でBBCのロシア語放送を聞く人は多く、ロシア政府はアクセスを遮断したものの、BBCは現地の独立系ジャーナリストに遮断を回避する方法を教えるなどの支援を行った。国際ニュースチャンネル「BBCワールドニュース」へのアクセス拡大にも力を入れており、ロシアのプロパガンダに対抗する役割を果たしているといえる。
BBCは世界の放送局の中でも質量ともにトップクラスであり、日本のNHKを含めて多くの国の放送業界に影響を与えている。本書はBBCの100年の歴史の中で、その成長の陰で内部に多くの問題を抱え、苦闘しながら歩みを続けてきた様子が描かれる。
ネットやSNS、動画サイトなども含めてメディアが多様化する中で、視聴者から受け取る受信料を財源に経営する形が将来にわたって持続可能なのかという議論も常にある。BBCのみならず、時に「オワコン」とも揶揄される放送メディアの将来像について考えさせられる充実の一冊である。