Economist誌8月31日号の社説が、スーダン内戦は世界最悪の人道危機であるのみならず、アフリカ、中東、そして欧州にも大きな影響を与える地政学上の混乱をもたらす恐れがある、と警告している。要旨は次の通り。
スーダンの内戦は、ガザやウクライナに比べればほとんど注目されていない。しかし、どちらの紛争よりもよりひどい結果をもたらす恐れがある。
アフリカで3番目に大きな国の首都が破壊され、15万人が虐殺され、人口の5分の1に当たる1000万人以上が避難を余儀なくされている。80年代のエチオピアよりも深刻な飢饉が迫っており、年末までに250万人の死者が出るとの試算もある。
これは世界最悪の人道危機であり、地政学的な時限爆弾でもある。スーダンの規模と位置が国境を越える混乱の原動力となる。
中東諸国とロシアは平然と交戦者を支援しており、西側諸国は関与せず、国連は麻痺し、暴力は近隣諸国を不安定化し、ヨーロッパへの難民流入の引き金となる。紅海に約800キロメートル(km)の海岸線を持つスーダンの崩壊は、世界貿易の重要な動脈であるスエズ運河を脅かす。
主な交戦者はスーダン正規軍(SAF)と民兵組織の即応支援部隊(RSF)である。どちらもイデオロギーや一枚岩の民族的アイデンティティがあるわけではなく、国家とその戦利品の支配権を争う不謹慎な軍閥によって指揮されている。
外部勢力は戦闘を煽っている。アラブ首長国連邦(UAE)は、RSFに、イランとエジプトはSAFに軍事援助を行っている。ロシアはワグネルを派遣して両陣営を翻弄している。サウジアラビア、トルコ、カタールも影響力を争っている。
スーダンはテロリストの巣窟にもなりかねない。無秩序の種をまこうとする他の政権の足がかりとなる可能性もある。
ロシアとイランはSAFを支援する見返りに紅海の海軍基地を要求している。もしスーダンが恒久的な無政府状態に陥るか、ならず者国家になって欧米に敵対すれば、スエズ運河の運営をさらに危険にさらすことになる。世界貿易の7分の1を担う同運河は、既に、イエメンのフーシ派の攻撃による混乱により、貨物船はコストのかかる長い迂回を余儀なくされている。
大変な問題であるにもかかわらず、世界はスーダンの戦争に無視と宿命論で対応してきており、無秩序が常態化している。しかし、世界がスーダンを無視するのは道義的にも自らの利益の面でも重大な誤りであり、何もできないと考えるのも間違いだ。
より建設的なアプローチには2つの優先事項がある。1つは飢餓や病気による死者を減らすための迅速な援助の獲得だ。
もう1つの優先事項は、紛争を煽っている外部勢力に圧力をかけることだ。もしスーダンの軍閥の武器とそれを買う資金が減れば、殺戮は減り、戦争による飢餓も減るだろう。米国、ヨーロッパ、そしてその他の責任ある諸国は、スーダンを悪用したり、助長したりしている企業や政府高官に対しUAEのような同盟国を含めて制裁を科すべきだ。
500日を超える無慈悲な戦闘の後でダメージを修復するのに何十年もかかるだろう。しかし、世界が今行動すれば、何百万人もの命を救い、悲惨な地政学的な余波の可能性を減らすことができる。あまりにも長い間、スーダンの戦争は無視されてきたが、今こそ注目すべき時が来た。
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この社説は、内戦が長期化しスーダンが破綻国家となれば、その影響は、サヘル地域やアフリカの角に紛争が波及するといった単なる地域的なものに留まらず、(1)大量の難民のヨーロッパへの流出し(そうなれば欧州連合〈EU〉におけるポピュリズムがさらに力を得ることは容易に想像できる)、(2)この地域がテロリストの巣窟となる(これは米国の最も嫌がることであろう)、(3)紅海における情勢の不安定化からスエズ運河が機能不全となり世界貿易に影響が及ぶ(紅海岸にイランやロシアの海軍拠点ができれば安全保障上の問題ともなる)といった、グローバルな影響をもたらす地政学上の懸念を提起している。