長年、タクシン元首相は民主化を求める層と貧困層の支持を得ていたが、前者は、前進党に代表される新興民主化勢力に徐々に奪われ、特に、今回、タクシン元首相の帰国と引き換えにタイ愛国党が保守派・軍部と連立を組んだことにより、民主化を求める支持層は決定的に離反したのではないだろうか。従って、「デジタル・ウォレット」を強行しても第1党を奪還するのは難しいかも知れない。
タクシン元首相の側近だったセター首相が解任され、末娘のペートンタン氏が首相に任命された事情は、このFT紙の指摘の通りと思われる。セター首相が言い掛かりの様な理由で裁判所に解任されたのと同様に、ペートンタン氏を首相にしておけば、保守派・軍部は、何時でも裁判所を使って同氏を罪に問うことが出来る。
父親のタクシン元首相も不敬罪の裁判を抱えており、保守派・軍部は、裁判制度を利用してタクシン一族をコントロールしようとしている。保守派・軍部は、この社説の標題の通り裁判制度を利用して若年層を中心とした民主化勢力をもコントロールしようとしている。「法律戦」というのは、こうしたやり方を指してそう呼んでいる。
この社説が指摘する通りタイ経済は、不振が続いている。セター前首相が努力した外国からの投資の促進が必要な事は間違いないが、少子高齢化のためタイの市場の魅力は着実に落ちているように思われる。
社説が指摘する通り、このままではタイが「中進国の罠」から脱するのは難しいと思われ、真に民主的に選ばれた代表が政治を担わなければタイは繁栄しないであろう。過去には民主化勢力に対して軍事クーデター等の暴力で対抗した保守派は、「法律戦」に手法を変えて引き続き、彼等に都合の良い様にタイをコントロールしようとしている。