次元の異なる少子化対策を推進するために創設された「子ども・子育て支援金制度」は、国民負担やサービス内容の議論が先行し、制度の抱える特徴が十分に理解されていない。その特徴は、安定財源の確保と不合理な制度設計という二つの側面から説明することができる。政治家や政策担当者にとって”打ち出の小槌”になりうる支援金制度の概要を解説する。
2024年6月、子ども・子育て支援法などの改正法が、参議院本会議で賛成多数で可決・成立した。
改正法では、児童手当の所得制限の撤廃や18歳までの対象拡大、「こども誰でも通園制度」の導入、育児休業の拡充などに加え、本稿で取り上げる「子ども・子育て支援金制度(以下、支援金制度)」が創設された。支援金制度は、公的医療保険に上乗せして国民や企業から広く拠出を求め、少子化対策の財源を確保するものである。
政府は少子化対策の強化に年間3兆6000億円が必要であり、28年度までに安定的な財源を確保するとしている。内訳は、既存予算で1兆5000億円、歳出改革で1兆1000億円、企業や国民から集める支援金制度で1兆円程度と見積もっている。
報道では、国民一人当たりの負担増がいくらになるのか、どのサービスがどれだけ拡充されるのかといった“わかりやすい”内容に目が向きがちである。しかし、今までの社会保障制度と比べてどのような性質をもっているのかは、十分に整理されていない。メリット、デメリットがわからなければ、支援金制度に賛成することも、反対することもできない。
そこで本稿では、支援金制度の二つの側面に焦点をあてて、制度の特徴を解説したい。二つの側面とは、「安定財源の確保」と「不合理な制度設計」である。
支援金制度の第1の特徴は、制度を創設したことで安定した財源を確保できることである。「改善に向けた大きな一歩になる」(山口慎太郎東京大学大学院教授、NHK、2024年6月5日)、「安定財源の確保を歓迎」(藤森克彦日本福祉大学福祉経営学部教授、東洋経済、2024年3月30日)などの声が代表的なものである。
日本では、高齢期には医療・年金・介護という強固な社会保険制度によって生活が保障されている。保険料の高さや、年金額の少なさなどの不満はよく聞かれるものの、世界的にみても、これだけの社会保障サービスを整備している国は多くない。
一方で、子育て期は支出が増えるにも関わらず公的支援の規模は小さく、「税金や保険料を取られるばかり」という現状があった(表1)。安定財源を得たことで、若い人たちに対するサービスの拡充が期待できる。世代による不公平感も、一定程度、解消される効果も期待できるだろう。
支援金制度の第2の特徴は、制度設計に社会保険を採用したことによって生じた不合理である。この点については、「無理筋の財源調達方法」(高端正幸埼玉大学人文社会科学研究科准教授、都市問題、2024年6月号)、「都合のよい財布」(谷口智明第一生命経済研究所総合調査部研究理事、2024年3月1日)との批判がある。
そもそも、民間保険を含む社会保険は、被保険者が共通して抱えるリスクをカバーする仕組みである。医療保険なら病気やケガ、介護保険なら要介護状態、雇用保険なら失業などのリスクに備えて保険料を拠出する。そして、リスクが顕在化すれば、一定の要件のもとにサービスが提供される。保険料を支払う代わりに、万が一の保障を受ける権利を得る訳である。