<再びEUを挑発するのか>ハンガリー・オルバン首相の“議長国外交”に悩むEU加盟国

2024.08.30 Wedge ONLINE

 シンクタンクGerman Marshall Fundのダニエル・ヘゲデューシュが、8月2日付の論説‘Orbán De-Escalates?But He Will Strike Again’で、ハンガリーのオルバン首相は彼のロシアをはじめとする一連の外国訪問が惹起した欧州連合(EU)と加盟国の反発に遭い、当面身を低くすることとしたが、この秋には再び挑発に及ぶ可能性があると論じている。要旨は次の通り。

EU議長国となってから挑発的な行動が目立ったハンガリーのオルバン首相( Pier Marco Tacca /gettyimages)

 オルバンの挑発的なロシアを含む外国訪問により、EU議長国としてのハンガリーの任期は騒々しく幕を開けたが、その後、オルバンは戦術的なディエスカレーションを実行しつつある。

 EUと加盟国の予想外の厳しい反応に適応し、身を低くして秋まで無傷で切り抜けることを狙っている。しかし、機会を見出せば、混乱した外交を再開するだろう。

 オルバンの「平和攻勢」が惹起した反発は、驚くべほど敏速で明快なものだった。欧州理事会(EU首脳会議)議長シャルル・ミシェル、欧州委員会委員長フォン・デア・ライエン、外交上級代表ジョセフ・ボレルは直ちにオルバンのモスクワ行きを非難した。

 スロバキアを除く加盟国はすべて議長国としての立場の濫用と真摯な協力というEUの原則の明確な違反だと批判した。一部の加盟国は議長国による各種の会合のボイコットを始め、欧州委員会は政治レベルでの会合をボイコットすると表明した。

 イエローカードを突き付けるこの予想外の決意に当面し、また、挑発が象徴的行動を超える反撥の引き金となるかも知れないことを認識して、オルバンはディエスカレートすることを決めた。

 しかし、加盟国はオルバンが今後予定されるジョージア、モルドバ、米国の選挙に関連して混乱を招く外交を阻止する機会を逃しつつある。

 10月末にはジョージアで議会選挙、モルドバでは大統領選挙と憲法にEU加盟を目標として書き込むことについての国民投票が予定されている。これら諸国では、EUを代表するとの口実によるオルバンの干渉によって、親クレムリン勢力、EU統合反対派、あるいは与党「ジョージアの夢」に有利にバランスが変わり得る。それは、ジョージアとモルドバの社会に広範な否定的影響を及ぼすであろう。

 オルバンは11月7日(米大統領選挙の2日後)のブタペストにおけるEPC(European Political Community、欧州政治共同体)の会合にトランプを招くことができる。もし、選挙結果がまだ確定しない状況でトランプを招けば、EPCをオルバンが外交的にハイジャックすることとなろう。

*   *   *

誤解を与える「平和ミッション」

 7月にハンガリーがEU議長国となるや、オルバンは突如としてキーウ、モスクワ、北京を順次訪問したが、彼は一連の訪問を「平和ミッション」と称した。7月11日には、ワシントンでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席の後、マール・ア・ラーゴにドナルド・トランプを訪ねて会談した。

 彼はかねてトランプと親密であり、トランプと会談したこと自体は驚きではない。何が話し合われたのか分からないが、オルバンはこれも「平和ミッション」と称している。

 オルバンはウクライナ支援に反対する一方、直ちに和平協議を行うことを提案しており、トランプと立場を同じくしている。EUがトランプの返り咲きの意味合い、特に、彼の保護主義的貿易政策、彼の対ウクライナ政策(ウクライナ支援を停止し、ウクライナにロシアの条件による和平を強要しかねないこと)および、彼のNATOに対するコミットメントの信頼性について懸念を深め、特別のチームを編成して対応策を研究しようという状況にある時に、オルバンがトランプとの親密さを誇り、トランプ再選の暁に何が出来るというのか、理解出来ない。

 EUの統一的な外交方針を無視したオルバンの一連の勝手な行動をEUは看過し得るはずもなく、8月末にブタペストで予定されていた外相理事会の開催地をブリュッセルに変更したことは、EUとして最小限必要な措置だったと言い得るであろう。

オルバンは今後、どう動くのか

 この論説は、EUと加盟国の予想外の厳しい反応に驚いたのか、オルバンは当面おとなしくすることとしたが、この秋には再び挑発に出る可能性があると予想している。特に、米国の大統領選挙との関連で、オルバンが選挙日の2日後の11月7日にブタペストで開催予定のEPC(欧州政治共同体)の会合にトランプを招待する可能性などを書いているが、これは些か想像力の飛躍ではないかと思われる。しかし、このところのオルバンの行動に照らせば、あながち突飛な想像として片付ける訳にも行かないのかも知れない。