ここで思い出されるのが、1978年から5カ年にわたる水田利用再編対策がスタートし、コメの生産調整が実質強化された頃である。皮肉なことに、過剰を前提とした政策運営の下で、1980年産(作況指数87)、81年(96)、82年(96)、83年(96)と4年連続して不作が続く。自主流通米の価格は上り、食糧庁の需給計算上では完全にショートであった。
しかし、当時の担当者に何の焦りもない。「価格が上がればモノは、産地からも流通パイプからも必ず出てきます。問題は先をどこまで予想するかです」。経験者の確かな対応で、事態は自然に収束していった。
供給不足と価格高騰の防止の観点から関西のある卸は政府備蓄の2~3年古米をブレンド技術で遜色なく活用していた事例も耳にする。民間による対応もしっかりなされていた。ジタバタすることがさらなる混乱を呼ぶことになるというのだ。
根本的原因の一つは、米の生産調整にある。完璧に需給をマッチさせようと、ギリギリの(政府介入型)需給操作が事態を悪化させている。
もう一つは公正、公開の市場整備が立ち遅れ、コメ生産の経営持続のために将来価格を知った上で翌年の生産、経営を計画する仕組みもまだ未熟である。現物市場、先物市場の本格運用がともに遅れたのは否めない。
需給がタイトなときは、現物を持つ者が強気、欲しい者は買い急ぐのがごく当り前の行動で、これを是正、平準化するのが先物市場の機能である。先物取引が価格平準化をもたらすことは学術的にも実証されている。堂島取引所の今後に期待したい。
そして、いま必要なことは、日本国内だけで、生産調整の手法でピタリと需給をマッチさせようとしないことだ。いまや、このために使っている予算は、3500億円とも4000億とも言われている。
これを直接支払いに充て、経営基盤を得た農家はコメを増産、価格は市場に委ねる。それによって輸出を盛んにし、不作時の備蓄=食料安全保障の機能を果たす。
日本種米の国際市場のヘゲモニーは、日本の取引所が握る。コメ生産者の経営持続は直接支払いが担い、食料供給のインフラである農地の規模と農村地域社会の維持も可能になる、というものであろう。こうした状況を踏まえると、買い取り集荷と先物取引利用の時代はそう遠くない。
新米の収穫が9月、10月とこれから進んでいく。流通がはじまる新米と産地倉庫や流通パイプに残っていると思われる23年産米がどのような行動、対応をして来るか、目が離せない。
米産業の将来を占う大事な年になるかも知れない。