スーパーマーケットなどでコメの品薄が相次いでいる。まちの米屋では、「1人様1点限り」といった貼り紙もなされ、「令和の米騒動」などと取りざたされている。
なぜ、コメが消費者の手に届き難くなっているのか。ここには、開かれた市場とは言えないコメ独特の流通形態と、いまだ続く生産調整があると言える。
農林水産省の最新見通しによる2025年産の必要生産量は669万トンと、日本では年間約700万トンが生産されている。このうち、農家保有や縁故米として250万トンぐらいが産地に残ると推測される。
従って、消費者への流通に乗るのは約400万トン。そのうちJA全農の扱いは200万トン程度で、その他は米穀集荷業者が扱ったり、地域の農協(単協)や法人など大型農家が直販したりしている。
価格形成センターが廃止されてから公開のコメ市場が無い状態が長らく続き、ごく最近誕生したネットオークションの現物市場(米みらい市場)もいまだレールには乗っていない。そして、コメの価格は、JA全農が扱う場合は、クローズなJA全農とコメ卸間での相対取引で決められている。
コメの生産者とJA全農との間では委託販売でなされており、価格上下のリスクは最終的に生産者が負っている。JA全農は、集荷競争との関係から収穫前に概算金(前渡金)を生産者に支払う。
収穫前に支払うというのは、盆暮には何かと金が必要だろうという食糧管理制度以来の伝統だが、JA全農の場合、実際の販売価格が概算金を下回ったときには差額を翌年産の販売価格から取り戻す(プラス、マイナスを精算する)仕組になっている。つまり、リスクは全て生産者負担だ。
JA全農が関与しない流通については、クリスタルライスや日本農産市場、全国米穀工業協同組(全米工)といった特定の業者で形成されるいわば?仲間相場?での取引や、地方での小規模取引などスポットで動いている。それぞれが見本などで情報を確かめながら札入されているものの、限定的なメンバーと情報によるもののため、公正公開の取引や価格形成とは言いにくい。
生産された全てのコメが小売店などから一般消費者へ届けられるわけではない。主食用米というのは、国の作況(1.7mmの篩下はくず米の扱い)や需給計算上では、1.7ミリメートル(mm)メッシュの篩(ふるい)の上に残るものとされている。しかし、実際にJAが取引する際には、各県毎に篩目を1.8mm以上とか1.85mm以上というように粗くし、コメの品位(見た目)を良くするのが通常である。
その際に篩下に落とされた1.7~1.85mmのコメは、いわゆる業務用米として、外食産業などが自らの品質判断のもとに価格を決めて取引し、購入していく。こうした自由自在の調整(ブレンド)の役割を担うのが「特定米穀業者」と言われる方々である。
コメ需給がタイトになれば、ときには、1.7mm以下も業務用としてブレンドし有効利用することもあるが、一般には、1.7mm未満は、味噌、焼酎など加工用に向けられる。あるメーカーのビールの表示を見て欲しい。原材料として「米」と表示されている。
この特定米穀の発生量は普通作の年であれば50万~60万トンの規模だから、需給がタイトになって篩目を小さくした結果「特定米穀(業務用米)ではコメが30万トン足らない」と報じられると、そこへの買い急ぎ、奪い合いも生じかねない。現物の確保を求めて「高値が高値を呼ぶ事態」を引き起こすことにもなる。
今回の「令和の米騒動」の原因としてメディアなどでは、23年夏の猛暑など異常気象で品質(品位)が劣化し精米歩合が低下し、またインバウンド需要が増加してタイトになった、日向灘地震と南海トラフ大地震への警戒情報(備蓄の勧め)が不安を煽り、流通業者、消費者に買い急ぎをさせたことが挙げられている。