〈AIを重視するインドの防衛〉その理由から見える日本の安全保障が進むべき道

2024.07.29 Wedge ONLINE

 そして、当時、国際的に孤立していたソ連と秘密協定を結び、ソ連国内に「農業用トラクター」として戦車を大量に運び込み、新しい戦い方に基づく軍隊を、秘密裏に研究し、訓練し、作り上げていった。さらに軍用機も、中立国のスウェーデンなどで、民間機として開発した。

 最終的にナチスが政権を担った時、そこには、新しい軍隊があった。ドイツは徴兵を開始し、軍隊は300万人へと一極に拡大し、もともといた10万人の軍人たちがその上層部になっていった。こうして、ドイツは20年間で、他のヨーロッパ諸国を圧倒する軍隊を秘密裏に作り上げてしまったのである。

 実は、同じことは日本についてもいえる。日本も、巨大でお金もかかる戦艦ではなく、空母を集中運用して、航空機で軍艦を沈める新しい戦術を採用し、実際に真珠湾を奇襲した。その時点では、日本も、優れた戦術を採用した国であった。当時、陸海軍の大学は、帝国大学(例えば今の東京大学など)に勝るともいわれ、優れた人材を集めていることで知られていた。

実際に勝ったのはアメリカの物量をもたらす技術

 しかし、ドイツと日本は、本当の意味で、世界最強の軍隊を作ったといえるだろうか。第2次世界大戦に最終的に勝利したのはアメリカだ。ドイツと日本ではない。

 アメリカはどのようにして勝ったのだろうか。それは圧倒的な物量、それをもたらすさまざまな施策であった。

 ドイツや日本が、新しい戦術を採用して、各国の軍隊を破った時、アメリカは、自らも、その戦い方を採用することに決めた。ただ、そこにはアメリカ独自の側面もあった。

 それは、大量生産することを重視し、規模が大きいことであった。当時のドイツは、エリート部隊は自動車化していたが、ドイツ軍全体を自動車化するには至らず、多くの部隊は、まだ徒歩や馬で移動していた。

 しかし、アメリカは違う。自動車化が素晴らしいアイデアだと理解してからは、大量の自動車を生産して、すべての部隊を自動車化してしまった。自動車の生産能力が高かったからできた、というだけではない。当時のアメリカはすでに自動車化社会で、運転免許を持った人が多かった。だから、運転手にも困らなかったのである。

 アメリカは戦車の大量配備にも成功し、ドイツ以上に多くの戦車を生産、配備した。だから、戦場によっては、ドイツの戦車は5倍の数のアメリカ戦車と戦った。

 これは、アメリカの生産能力が高いから実現したこともあるが、アメリカは量産するために多くの工夫もした。例えば、強力な重戦車の生産をキャンセルして、中戦車の生産に、できるだけ一本化し、より大量生産・大量配備を狙ったのである。

 同じように、日本に対してもそうであった。空母の定義にもよるのだが、真珠湾攻撃の前、日本は9隻の空母を持ち、アメリカの7隻よりも多かった。日本の方が空母を重視していたからである。しかし、戦争の最中、日本は16隻の空母を建造したのに対し、アメリカは約160隻の空母を建造し、自国海軍に配備しただけでなく、イギリスにも30隻以上、供与したのである。

 つまり、アメリカが示したのは、ドイツや日本が採用した新しい戦い方のアイデアが短期的には大きな効果を発揮しても、そのアイデアが知れ渡ってしまうと、その後は、物量が勝敗を左右することであった。

 筆者がアメリカに滞在している時、アメリカの物量の技術について、経験したことがある。それはアンドリュース統合軍基地での航空祭の時であった。

米国の航空祭の集合場所として使われたスポーツ施設(筆者提供、以下同)

 何万もの来場者が来ることが予想されるため、アメリカ軍は大規模なシステムを整えていた。まず、集合場所は、航空祭の会場から遠く離れたスポーツスタジアムにする。そこにつくと、巨大なゲートでテロ対策として荷物検査が行われる。