〈AIを重視するインドの防衛〉その理由から見える日本の安全保障が進むべき道

2024.07.29 Wedge ONLINE

 インドがAI重視に向け、動いている。今年3月には、インド陸軍内にAIを中心とする新技術を研究する専属部隊を創設した。インド軍の統合国防長(日本の統合幕僚長にあたる)をはじめとする指導部も、各地を講演し、繰り返し、AIをはじめとする次世代技術の重要性を指摘し続けている。

インド軍はAIに力を入れつつある(abhisheklegit/gettyimages)

 筆者は、昨年、インド国防省に呼ばれ、国防費の使い方について講演した。最初にインドのシン国防相がスピーチし、最初のセッションでは、インドの統合国防長ともう1人のインド人発表者とともに3人で発表した。

インド軍統合国防長と発表する筆者

 本稿は、そこでの講演をもとに、なぜインドがAIを重視しているのか、その背景について分析を試みるものである。端的に言えば、AIは、過去の戦争で勝利をもたらした要因からみて、ぴったり当てはまるものだからだ(インドでの講演は、英語の論考として発表している)。

人材が強い軍隊を作ったドイツと日本

 過去の戦争とは、例えば第2次世界大戦である。ドイツと日本の例を見てみよう。第1次世界大戦の後、ドイツ軍は、ベルサイユ条約の下で、人数は10万人、戦車、航空機、潜水艦の保有を禁止された。自衛隊は現在24万人であるので、その規模の小ささ、装備の少なさがわかる。

 しかし、20年後、第2次世界大戦がはじまると、ドイツはヨーロッパの半分以上の軍隊を打ち破り、各国を占領してしまったのである。たった20年で、そのようなことをどうやって実現したのか。

 まず、ドイツは、10万人を、将来短期間で大幅に拡大(結局300万人になる)するべく、10万人全員がピラミッド組織の頂点になれる優れた人材になるよう訓練した。人材の分類の際にいわれたのは、人間を4つの種類に分けるというものである。

 知性があって真面目な人間、知性があっても不真面目な人間、知性がなくても真面目な人間、知性がなくて不真面目な人間である。そして、最も重要なのは知性があって真面目な人間とした。勝つための作戦を立案できる人材を欲したためである。

 次に重視したのは、知性があって不真面目な人間である。なぜなら、命が危険にさらされるような危機的な状態に放り込めば、必死に、知恵を絞ると考えられ、現場で役立つ、図太さも持った指揮官になり、トップリーダーにすらなるかもしれない、と考えられたからだ。

 その次が問題だ。知性がなくても真面目な人間と、同じく知性がなくて不真面目な人間、どちらが重要だろうか。

 当時のドイツでは不真面目な人間を重視した。これらは中級、下級の普通程度の幹部として、命令されたことだけ行い、余計なことをしない人材とみなされたからだ。そして、知性がなくて真面目な人間は、不要とされたのである。

 日本では「愚直」という言葉がよいことのように使われるので、少し意外に思うかもしれない。しかし、第1次世界大戦では、機関銃で全滅してしまうとわかっていても繰り返し突撃命令を実行する、真面目なだけの指揮官たちがいた。そのような指揮官の下では、犠牲が増えるだけで戦争には勝てない、と考えられたのであろう。

 この分類法の特徴は、徹底的な頭脳派軍隊を重視していることである。そして、当時のドイツの厳しい経済状況と、強い復讐心の中で、軍は、知性のある人材を獲得し易かった。

 この知性のある人材は、既存の戦い方を継続する代わりに、まったく新しい戦い方を採用した。大量の戦車を集中運用することにし、通信機で航空機や火砲と連携させた。歩兵も自動車化して戦車に随伴し、連携し合うようにしたのである。