【検証、テレビ討論会】バイデン撤退のシナリオ、ハリスに任せる可能性はあるのか?副大統領候補はオバマ・ミシェル夫人か? 検証、テレビ討論会

2024.07.06 Wedge ONLINE

 米国の心理学者アルバート・マレービアンは、人間の間のコミュニケーションにおいて、言葉が7%、声の表現が38%、ボディランゲージ(身体言語)が55%と分析した。言語は僅か7%で、声のトーンや高低、スピード及びボディランゲージを含めた非言語が93%を占めていることになる。

 6月27日のジョー・バイデン米大統領とドナルド・トランプ前大統領による1回目のテレビ討論会では、トランプ前大統領は、30件以上も虚偽の主張を重ねたものの、歯切れの良い口調と、健康不安を感じさせない表情で議論に挑んだ。

 これに対して、主催者の米CNNの「ファクトチェック」によれば、バイデン大統領は虚偽や誤解を招く主張の数こそ、トランプ前大統領の3分の1以下であったが、その声はかすれ、力がなく、顔は下を向き、上を向いたときは口が開いている有様であった。

 マレービアンの法則をこの討論に当てはめてみると、討論会終了後の世論調査や知識人による勝者の判定が、トランプ前大統領に傾いたのも頷ける。

 率直に言えてしまえば、バイデン大統領の政策における実績、即ちリーダーシップが追いやられ、映像の力が実に大きかった。

 バイデン大統領には、今、2つの選択肢がある――継続か撤退か。米メディアによれば、家族会議の結果、継続を選んだようだ。では、バイデン大統領はどのようにして、選挙戦を立て直すのだろうか。

 目下のところ、バイデン撤退の具体的な動きはないものの、一方ではバイデン撤退、他方ではバイデン継続支持の動きがあり、予断を許さない状況である。そこで、本稿では、継続と撤退の2つのシナリオについて考えてみることにする。

 まずは、テレビ討論会を振り返り、次に予想されるバイデン大統領の挽回策について述べる。最後に、バイデン撤退について示してみる。

(AP/AFLO)

決定的瞬間を逃したバイデン

 テレビ討論会の前に行われたコイントスで勝ったバイデン大統領は、カメラアングルの良い右側の演壇を選択したが、それがかえって、精彩に欠けるバイデン氏を目立たたせた。結果的に健康不安や高齢問題を大きくしてしまったのだ。

 また、バイデン大統領はトランプ前大統領の攻撃に対して、効果的に切り返しができなかった。例えば、ニューヨーク州の地裁において、12人の陪審員全員から34の罪で有罪評決を受けたトランプ前大統領を「重罪犯(felon)」と呼んだが、トランプ氏から次男ハンター氏の有罪評決を持ち出され反撃された。

 この時、バイデン大統領は「私は大統領であり、父親でもある。息子のことを思っている」と、「人間性」を全面に出す絶好の機会であった。その上で、「しかし、恩赦は出さない」と述べ、忠誠心と引き換えに恩赦を側近に与えたトランプ前大統領と対比させるチャンスでもあった。バイデン大統領はこの決定的瞬間を逃した。

「マイ・メモ用紙」持ち込み禁止

 さらに、トランプ前大統領が「不法移民=犯罪者」というステレオタイプ(固定観念)を用いて、不法移民による犯罪を許したバイデン大統領は犯罪人であると主張した際、バイデン大統領は同政権下で犯罪件数は減少し、しかも、実際は不法移民よりも米国市民による犯罪件数の方が上回るというデータを示すべきであったが、なぜかそうできなかった。

 普段のバイデン大統領であれば、自分の名前が印刷された「マイ・メモ用紙」に、アピールポイントを整理し、常に背広のポケットに入れている。今回のテレビ討論会では、事前メモの持ち込みが許可されていなかった。

 もしも許可されていれば、バイデン大統領はトランプ前大統領が不法移民に対するステレオタイプを用い、誤った認識で持論を展開した時、データを示すことができたに相違ない。事前メモの持ち込み不可が、バイデン大統領の心理面とパフォーマンスの双方に影響を与えた可能性は排除できない。