健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

「うわっ……私の飲む薬多すぎ!?」高齢者9割が悩む〝多剤服用〟の解決法

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余る薬はどうすればいいか

いろいろな種類の薬を飲んでいると、薬がどうしても余ってきます。
1日3回飲む薬の場合、とくに昼間は飲み忘れが多いものです。
睡眠薬など、眠れないときにだけ飲むような薬は、毎晩飲むものでもないので、余ってきます。

外来で「睡眠剤は4錠、胃薬は17日分余ってます」「あの白い錠剤は7錠、赤い錠剤は15日分余ってます」などと言い、患者さんのほうから、処方される薬の種類や量に関して細かく注文してくる場合があります。
じつはこれは、医師が非常に嫌がる行為だったりします。

というのも、忙しい診療時間内で、薬の錠数の調整をするのは非常に面倒なのです。
患者さんは薬に詳しいわけではないので、赤い薬といった情報だけを伝えてきたり、おおまかに胃薬とだけしか覚えてなかったりするので、それを確かめるだけで時間がかかります。
さらに「今日は胃薬はいりません。2ヶ月前にもらった痛み止めをください」というように、都度要望する薬が変わってきたりすると、ますます混乱してきてしまうのです。
結果として、処方の間違いが起きやすくなってしまいます。

実際に私のところに通ってきている患者さんのなかには、毎回違う薬の処方を要求する患者さんがいます。
からだの調子が毎回違うからしかたがないといえばしかたがないのですが、原則、薬は医師が患者さんの症状や状態を見ながら調整していくものです。
それが患者側の投薬要求だけを処方していくことになると、本来の医療とは逸れていってしまうわけです。

残薬調整という方法

話を少し戻しますが、薬が余っている場合は、結局どうすればよいのでしょうか。

患者さんが、余った薬を薬局に持っていけば、処方する薬の数を調整してもらうことができます。
そういう調整をしたという連絡は、処方した医師にしなければなりませんが、法的には問題なく、薬を無駄にしないでいいのですから、いい制度だと思います。

しかし、細かい薬の数合わせは薬剤師にしてみれば、非常に手間がかかります。
そういったことになる前になんとかしてほしいというのが、薬剤師としても、患者さんとしても、医師としても、本音なのでしょうが、なかなかうまくいっていないのが実情でしょう。

薬の減らし方

理由はどうあれ、薬が余るということは、けっしていいことではありません。

医師に内緒で、患者さん自身が勝手に飲む薬を減らしてしまうということは、実際にあります。
これは薬によっては非常に危険なこともあるので、原則は処方通りに薬は飲むべきです。

その一方で、あまりに飲まなくてはいけない薬が多すぎて飲みきれないというのならば、医師に相談のうえ、薬に優先順位をつけるべきでしょう。

定期的に外来に通っていると、いつも同じ薬が出て、それを変えることをしなくなっていきます。
病気には段階があるため、どこかの時点で薬を変えるなり、いっそ減らす決断をする必要があるのですが、それはそれで難しい問題もはらんでいるものです。

たとえば、認知症の薬は病気の初期では効果が期待できますが、病気が進行してしまえば、ほとんど薬を飲む意味がなくなってきます。
私は認知症の中期以降は、認知症の薬は中止するようにしていますが、それをするとかえって心配する家族もいるのです。「いままで飲んできた薬を止めていいんですか」という言い方をします。
そういう言い方をされる心配もあり、医師はなかなか思いきって薬が減らせないということもあるのです。

高血圧や糖尿病の薬も80歳を過ぎてくれば、いままでのようにきっちり血圧や血糖を基準値に近づける必要はなくなってきます。
長生きをしていると、血圧や血糖の薬も止めてもいい時期が来るのです。

勇気を出して「先生、薬が多いんです」と言ってみることです。それがあなたを救うことになるかもしれません。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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