「家族」というチームのつくり方

「仕事はできるのに家庭が崩壊している」残念なリーダーが増えている訳

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小さな飲食店からグローバルな大企業まで、さまざまな組織の運営・改善に携わってきた組織開発コンサルタント、高野俊一さん。今回、彼が新たにノウハウを指南してくれるのは、我々にとって身近な組織ともいえる、「家族の上手な運営の仕方」。
高野さんいわく「家族とは、最も一体感のあるチームにするのが難しい組織」とのことですが……

なぜ、うまくいっていない家庭が増えているのか

ビジネスにおいて、組織づくりはリーダーにとって必須のスキルになっています。
組織を一体感のあるチームにできないリーダーは、不必要な離職を生み、部下1人1人のモチベーションを高めることができず、なんでも自分1人でやってしまうので、生み出せる成果がそこそこで終わってしまいます。
いまや、チームづくりができるかどうかは、ビジネスの成否を分ける最重要テーマとなっていると言えるでしょう。

「仕事はチームでするもの」という考え方が浸透するようになったためか、よいチームをつくれるリーダーが増えてきたように思います。ですがそのいっぽうで、仕事の組織運営はうまくいっているものの、家庭内の組織運営がまったくうまくいっていないというケースがよくあるようです。

あなたも、以下のような家庭のトラブルを、見聞きしたことはないでしょうか。

・夫婦関係は冷え込んでおり、口を開けばけんかばかり
・お互いに不満はあるけれど、話し合ってもらちが明かないので我慢して黙る
・仕事や子育てのストレスを家庭にぶちまけて八つ当たりをしてしまう
・不機嫌な態度をとってしまう
・子育てに時間を割けず、うまく子どもと関係が築けない
・反抗してくる子どもにうまく対処できず、どう接していいかわからない
・家族と過ごす時間が幸せだと思う時間が減っている

このような不和は、どこの家庭でも多かれ少なかれ起きているでしょう。もしかしたら、あなたの家庭でも、現在進行系で起きているかもしれません。
しかし、こうした家庭の問題を放置すれば、やがて大きな問題に発展し、離婚をするしないの騒ぎになりかねません。

離婚率は、結婚する数に対して34%というデータがあります。3組に1組が離婚する時代とも言われています。
価値観が多様化している現代においては、離婚すること自体が悪いこととは言いきれないにしても、離婚をしようと思って結婚をする人はいないでしょう。だれもが結婚時には、「相手を幸せにしよう」「一緒に幸せになろう」と心に誓って結ばれたはずです。それにもかかわらず、日常のなかで当初の志は忘れられ、すり減らすように徐々に関係性が冷えていってしまうのです。

何を隠そう私自身も、組織の専門家でありながら、家庭という組織の運営に一度失敗し、結婚は2回目です。そしていまは、7歳の息子の育成に四苦八苦しているいち父親です。
ちなみに、前職のコンサルティング会社では、離婚は珍しいことではなく、経営層の半分以上が離婚経験者という状態でした。

いずれにしても、かつては家庭の不満があっても、お互いが飲み込んできたかもしれません。ですが、今はそうはいきません。
離婚へのハードルは下がり、共働き世帯も増えています。仕事もやって、家庭にも気を配って、ということを男性側も女性側も当たり前のようにやらなくてはいけないのです。
それにもかかわらず、家庭のことはどこかおざなりになってしまいがちです。さらに、仕事とは違って、家庭のことは何かと感情的になりがちです。
結果として、仕事はできるのに家庭の問題は解決できない、そういうビジネスマンが増えてきているのです。

なぜ家族という組織は難しいのか

私はこれまで、20数年にわたって「組織開発」をテーマにコンサルティングを行ってきました。様々な業種・職種の組織やリーダーを見てきましたし、皆さんがそれぞれに家庭を持ち、夫婦関係や子育てに悩んでいる話もたくさん聞いてきました。
ビジネスにおいて、うまくいっている組織と崩壊している組織があるように、家庭においても、うまくいっている家族と崩壊していると言っていいような家族があります。

人が集まれば、それは組織ですから、家族も組織です。ですが、家族という組織は、あらゆる組織のなかで、最も一体感のあるチームにするのが難しい組織だというのが、組織の専門家である私の見解です。その理由は以下の3つのためです。

①1人の感情(機嫌)の影響が大きい
②仕組みの徹底・継続が難しい
③正解のものさしと基準が存在しない

それぞれ解説していきましょう。

①1人の感情(機嫌)の影響が大きい

たとえば、飲食店などで出勤スタッフが30人いるような組織だと、30人中の1人が機嫌が悪くてもほとんど影響がありません。「なんか機嫌悪いな」と気づく人がいるかいないかという程度です。
ところが、同じ飲食店でも出勤しているのが自分を含めて3人のような小さい組織だと、3人のうち1人が不機嫌ならば、その日の影響力ははかりしれません。仕事が極端にやりにくくなり、離職の原因にもなりかねません。「不機嫌は暴力」と言われることもありますが、それは少人数の組織のときには、まさに言葉そのままの意味を持つわけです。

家族というのは、夫婦2人からスタートします。たった2人しかいませんから、夫婦のうちどちらかの感情が組織にものすごく影響を与えてしまうのです。
この「感情」というのがやっかいです。ビジネスでも、関わる人間の感情のコントロールがうまくいかず組織が崩壊してしまうことが多いのですが、会社組織と比べてメンバーの少ない家族の場合、感情の影響が大変大きいということです。

②仕組みの徹底・継続が難しい

組織をよくしていこうとすると、コミュニケーションのデザインをすることが有効です。
ビジネスであれば、「朝礼」や「1on1面談」、「会議」や「ミーティング」、「研修」など、どのようなコミュニケーションをするか、コミュニケーションの「場」を設計し、その徹底と習慣化で組織をよくしていきます。
また、組織をよくするためのアイデアをメンバーで出しあって、みんなで決めたことを徹底・継続することで、組織はどんどんよくなってゆきます。

ところが、この徹底と継続が、夫婦間ではうまくいきません。「なあなあ」になってしまい、決めたことが実行されず、「なんで決めたのにやってくれないの?」という口論になったりします。
そもそも決めた時点でも、お互いの「感情」がふんだんに入った話し合いですので、「決めたことにも納得がいっていない」など、言い訳はたくさん浮かぶわけですが、決定したことを徹底・継続することは非常に困難です。
さらには、夫婦で「朝礼」や「1on1面談」、「会議」や「ミーティング」をやるというのは、抵抗感を持つ人もいます。ビジネスでは当たり前のコミュニケーションデザインも、夫婦間や親子間では、相当なカスタマイズが必要になるのです。

③正解のものさしと基準が存在しない

家族という組織が難しい3つ目の理由は、「正解のものさし」です。

家族のなかでは、いろいろな話し合いや意思決定が行われます。たとえば、皆さんの家庭では、家事の役割分担はどうしていますか? ビジネスで置き換えれば、「この仕事は誰がやるべきか」はとても重要な意思決定です。
ところが、家事の役割分担は、一緒に暮らし始めて、得意な方が担当したりなど、なんとなくで割り振られてしまい、どちらかが家事分担のボリュームに不満を抱えていたり、相手のやった家事に対して、そのクオリティやスピードに文句があったりします。
本来、どちらが担うべきなのか?

この問いには「正解」は存在しません。ビジネスであれば、達成したい売上目標や利益目標があり、誰がどう担当すると目標達成度合いが最大化するか、というものさしで議論していくことができます。
また、ビジネスの組織には「序列」があり、経営者が向かいたい方向や上司に示すビジョンに従って意思決定するという場面もあって然るべきです。
ビジネスでは、組織の「正解」を定め、それに向かって組織をよりよくして行くことが重要です。

ところが、家庭の中で、正解のものさしは存在しません。あるのは「感情」だけです。
それはイヤ。やりたくない。これがやりたい。でもめんどくさいからいいや。
正解がないなかで、意思決定をすることはとても困難です。
家事の役割分担だけでなく、今日の晩御飯をどこで食べるのか、今度の休みはどこに行くのか、お金の使い方で、自分は自己投資にお金を使いたいが相手は美容やファッションにお金を使いたがっている、子供の進学先をどうするのか、親の介護をどうするか……

家族の問題は、大きなものから小さなものまで、すべて「正解のものさし」は存在せず、やってもやらなくてもどちらも「正解」になりえます。

これら3つの理由から、家族の組織づくりは非常に難しいのです。

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

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