成績が振るわない、メンバーが互いに無関心でいっさい協力し合わない、仕事を作業と思っており楽しそうに働いていない、離職者が多く人の入れ替わりが激しい……。これらは日本の多くの職場で見られる光景です。こうした環境に疲弊し、働くことに希望を見出だせない人が増えています。
この絶望的な状況を変えられる唯一の方法が「チームづくり」です。チームづくりがうまくいけば、すべてが劇的に変わります。部下も会社もあなた自身もラクにする、チームづくりのノウハウを指南します。
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では、チームづくりがうまくいっている組織と、そうでない組織の違いはなんなのでしょうか。
いいチームといえば、どんなチームを思い浮かべますか?
よく誤解されるのは仲のよさです。仲がいいだけの「仲良しクラブ」はいいチームに見えて、チームではありません。
私は、いいチームとは「目標の高さ」と「メンバーの関係性」の2軸でとらえるべきだと考えています。
次の図をご覧ください。縦軸を「目標の高さ」、横軸を「メンバーの関係性」にとり、4つの象限に分かれています。
このように見てみると、チームの状況が浮き彫りになります。
よりわかりやすくするために、野球チームで考えてみましょう。
「烏合の衆」とは、目標もなければ関係性も悪いので、ただ野球がやれるから集まっているだけの集団です。
「仲良しクラブ」は、勝たなくてもいいチームです。
試合に勝つ、強くなるといった目標がないので、メンバーがエラーしようがミスをしようが誰も咎めません。
このような「仲良しクラブ」でも、リーダーが目標をバーンと掲げると、「葛藤と混乱」が起こります。
突然、試合に勝つぞと宣言して目標に向かうことになると、勝つために練習方法を変えたり、練習頻度を増やしたり、トレーニングを強化したり、食事などの生活習慣を変えたりなど、目標達成のためのアクションをとらなくてはなりません。
すると、今まで目標のないぬるま湯にいた「仲良しクラブ」からは、反発する人が現れます。「そこまではやれない」「そんなつもりじゃなかった」「元の仲良しのみんなに戻ろう」と主張するのです。
目標を高くすればするほど、関係性を維持するのが難しくなります。
しかしチームを強くするためには、目標を高くしながら、仲間を巻きこんで関係性をよくしていかなくては、「強いチーム」にはなりません。
高い目標を掲げると、チームの人間関係は悪化する。
これは間違いないように思います。私も、高い目標のためにメンバーがギスギスしている組織をいくつも見てきていました。
ですが、必ずしもその限りではないようです。
むしろ、高い目標を掲げることでチームの関係がよくなるという逆転現象が起こることがあります。
以前一大ブームを起こしたラグビー日本代表を再度取りあげます。2015年のワールドカップで歴史的勝利を獲得した要因の1つに、当時のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズの目標設定の巧みさがあったと五郎丸選手は語っています。なぜ日本代表が勝てるようになったのか。
それは、日本選手の練習量に理由がありました。
ラグビーは、体格が大きいほうが有利なスポーツです。
世界的に見れば小柄な日本人は、強豪にはまったく歯が立たない弱小チームでした。
そこでエディー・ジョーンズは、勤勉で真面目な日本人の特性に着目して、徹底した厳しいトレーニングの「量」を選手に課すことにしました。
背中にGPSタグをつけて選手がどのくらいのスピードでどのくらいの距離を走ったのかを計測できるようにして、試合の開始直後のスピードと後半戦のスピードを比較してスタミナを見たり、サボり癖や体力の落ち方を把握し、圧倒的なスタミナと精神力を持てるようにトレーニングをさせたりしたのです。
一流のアスリートが音をあげるような過酷なトレーニングを、海外選手の何倍もの量でおこなったそうです。
結果として、スタミナはもちろん、スピードも上がり、ケガをしにくくなり、熱中症もゼロになりました。
その圧倒的なフィジカル力で、強豪を打ち破ったというわけです。
五郎丸選手が後に、エディー・ジョーンズコーチのどこがすごかったかと問われると、「選手が耐えられるギリギリの目標を掲げるのが非常にうまかった」と答えていました。
これはチームづくりの観点から見て、とても興味深いお話です。
目標を高くすれば、関係性が壊れやすくなる。
しかし、それを乗り越えて、メンバーを巻きこみ、動機づけをして、関係性を強化して、目標を下げることなく「強いチーム」へと変革したのが、ラグビー日本代表のワンチームなのです。