目標を高くしても、必ずしも関係性が悪くなるわけではない。
この事実を踏まえて、さっきの図をもう一度見てください。
私が、そのチームがよい状態にあるのか、悪い状態にあるのかを見る際に、重視していることがあります。
それは「上の段にいるか/下の段にいるか」です。
つまり、目標の高さがより重要なのです。
自分のチームの状態がよいのか悪いのか、それを調べる簡単な方法があります。
部下に向かって「いま、何に悩んでいますか?」と質問してみてください。
そのときに、「同僚が気にくわない」とか「AさんとBさんが喧嘩をしている」とか「Cさんがやる気をなくしている」とか、人間関係の悩みばかり出てきたら、そのチームは下の段、悪い状態にあることになります。
じつは、うまくいっていない多くの組織で問題になっているのは、こうした関係性の話です。
関係性の問題は軽視すべきではありませんが、それにばかり向き合っていては、どんなにチームをよくしようとしていても「強いチーム」にはなりません。
上の段のチームは何に悩んでいると思いますか?
それは目標に関する悩みです。「どうしたら目標が達成できるか」について悩んでいます。
先ほどの野球チームの例で言えば、「どうしたら試合に勝てるか?」「どうしたら得点力が上がるか?」「どうしたら失点が抑えられるか?」「どうしたらピッチャーのレベルが上がるか?」「誰がピッチャーをやるべきか?」といった感じです。
それに対して、下の段の悩みは一貫して関係性のことばかりです。
それは非常にセンシティブな問題となります。ちょっとしたことで関係性が崩れるからです。
「言い方が気にくわない」とか「相性が合わない」とか「なんとなく嫌い」とか、そういったあいまいで感覚的な小さな理由で関係性が悪化します。
関係性の問題は、それがあいまいで感覚的であるがゆえに、個人個人の感性にゆだねられて解消しないのです。
ずっと些末な問題に悩まされ続け、「烏合の衆」と「仲良しクラブ」を行ったり来たりすることになります。
他方、目標に向かう上段の集団にとって、言い方がどうだとか、相性がどうのということは気になりません。
極端な例ですが、火事になったときを想像してみてください。今いる部屋から火の手があがったら、そのときの目標はなんでしょうか。
火を消すか、逃げだすかのどちらかでしょう。部屋にいる全員が、どうにかして目標の達成に向けて動くはずです。そのとき、関係性を気にするでしょうか。
「いまのその言い方、むかつく」とか「もっとお互いのことを気づかおうよ」などと言っている場合ではありません。
目標に向かう人たちの前では、関係性は非常に優先順位の低い問題になります。
別の例をあげます。
私の世代で大ヒットした『スラムダンク』というバスケットボールの漫画をご存知でしょうか。
本当に素晴らしいチームづくりの物語で、日本だけでも1億部以上売れた超人気漫画です。
私自身、読むたびに感動し、何度も読み返しているほどで、読んでいない方はいますぐにでも読破してほしいのですが、それほど心震わせるチームでも、主人公の桜木花道とチームメイトの流川楓は仲がいいとは言えません。
何かとライバル視していがみ合う2人なのですが、試合に勝つという共通の目標に向かって、いざというときには力を合わせます。
目標に向かうチームにとって、関係性の問題はとるに足らないことなのです。
目標を高めると、やるべきことが増え、強制的に変化を起こさなくてはならなくなるからこそ、衝突はやむをえないものです。
結果として「葛藤と混乱」状態に陥り、メンバー間の関係性はギスギスしたものになります。
とはいえ、この「葛藤と混乱」は悪いフェーズではないと考えています。
相手の心情に配慮して言いたいことも言えないチームが、高い目標に向かって突き進めるわけはないのです。
また「葛藤と混乱」状況にあったとしても、目標が達成できれば、関係性もよくなります。
もちろん、目標だけを求めるのも問題ですが、チームメンバーの関心事がそれぞれの関係性ではなく目標にあるというのは、「強いチーム」を目指すうえで大事なポイントになります。