この共感目標は、ベンチャー企業やスタートアップ企業ではうまく取り入れられ、彼らの成長の源となっています。
意図したにしろ、していないにしろ、ビジョンを掲げ、それに共感する人だけで構成されたチームは、全ての意思決定が目標ベースになり、ただひたすらに目標に向かって突き進んでいきます。
目標への共感度が高い組織では、メンバー同士の関係性が問題になりづらいという側面もあります。意見の対立はありますが、それもお互い目標に対して真剣だからと理解できるからです。
ところが、組織が拡大していくうちに、メンバー間での目標に対する共感が薄くなってきます。考え方の違う人が入ってきたり、即戦力を求めるあまりビジョンへの共感を重視しなくなってきたりすることが原因です。
一般論として、組織が大きくなればなるほど、共感目標を掲げ続ける難易度は上がることは頭の片隅に覚えておいていただいて、まずは、あなた自身のチームで共感目標を設定してみましょう。
共感目標を作るときにイメージしてほしいのが、スポーツチームです。「全国大会に行きたい」「優勝したい」という共通の目標を持って活動しているスポーツチームは想像に難くありません。レベルの高い戦いであればあるほど、チーム全員が「絶対に勝利するぞ!」と同じ方向を向いています。
特に日本のスポーツチームのチームワークは世界に誇れるほど素晴らしいものです。個人のスキルや体格の違いを超越して、チームの力で戦い勝利する姿を私たちは何度も目撃しています。
監督「全国大会に行きたいと思わないか!?」
選手「思います!!!!」
こんなシーンもよくありそうですよね。
しかし、この監督と選手のセリフを、ビジネスの上司と部下のセリフだとするとどうでしょうか? あまりピンとこない人が多いかもしれません。
ビジネスの世界では、共感目標が作りづらいと考えられています。会社としてのビジョンや目標は掲げていたとしても、それはあくまで社長がやりたいことに過ぎない。社員にとっては意味のあるものになっていないケースが大半です。
そのため上司は押し付けの他者目標のアプローチや、年収や役職といった個人の欲求と紐づけた利己目標のアプローチに走ってしまい、チームの力を活かしきれずにいます。
共感目標がない組織というのは、同じボートに乗っていながらバラバラの場所に向けてオールを漕いでいるようなものです。
・この会社で、社会を変えてやるんだ!
・なんとかして売上目標を達成したい
・はやく給料上がらないかな
・定時で帰りたい
このように目指す先がバラバラの状態では、一人ひとりが頑張っていたとしても力が集約されることなくどこにも進めません。
もう一つ、共感目標を作るときに大切なのが、中長期的な視野で考えることです。
共感目標は、メンバー全員がワクワクして、自分から積極的に動きだしてしまうほどの魅力的なものである必要があります。それはきっと、1ヶ月や2ヶ月先のことではなく、もう少し先の未来で実現することであるはずです。
ところが、特に上司になりたての人の場合、中長期的な視野でチームづくりを考えることを苦手とする傾向があります。
・今月のプレイヤーをどうするか
・目の前に積み残っているタスクをどう処理するか
・目下トラブル中のAさんとBさんの仲をどう取り持つか
このように今日を、今月をどう乗り越えるかしか考えられないことを私は「今月思考」と呼んでいます。
今月のことももちろん大事ではありますが、これからチームを作っていくためには、ときに未来を見据えて、今月のことには多少の犠牲を払う覚悟も必要です。
私は、より効果的なチームビルディングの手段として共感目標を掲げることを推奨していますが、それだけではなく、これからの時代は、もはや共感目標でなければ通用しないと考えています。
一昔前までは、目標1.0=他者目標が当たり前でした。会社は強烈なトップダウンこそが正義であり、そもそも人生のパターンもある程度決まっていました。決まったレールの上を歩くことが普通であった世の中では、「やらされている」感覚すら抱かなかっただろうと想像できます。
また、高度経済成長期あるいはバブル期は、働けば働くほど稼げる時代でした。「24時間働けますか?」といったキャッチコピーが有名ですが、裏を返せば、それだけ働くに値する見返りが期待できた時代とも言えます。社会はどんどん便利になり、お金を稼ぎ、欲しい物を手に入れる経験は、目標2.0=利己目標の達成感にもつながります。
では、今はというとどうでしょうか。
・人生の選択肢が広がり、自分で選べるようになった
・モノが飽和しており、物欲が乏しい
・経済の成長が鈍化し、給料は増えない
・お金を稼ぐことよりも、SNSで「いいね」を集めることに価値を感じる
様々な社会の変化が部下の価値観にも大きく影響し、他者目標や利己目標を示されたところで、部下の心は動かないのです。
「俺が部下だったころはこうだった!」と感じることもあるかもしれませんが、目標に対する考え方も日々変化しているのだと認識し、ぜひアップデートしてください。