上司1年目は“仕組み”を使え!

「仕事がデキるのに尊敬されていない人」に足りない視点

2022.06.16 公式 上司1年目は“仕組み”を使え! 第28回
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人望のあるリーダーの特徴

3つの面を持ち合わせたリーダーは、ロジカルで、情に厚く、かつ怖さもある。「この人の期待に応えたい」「この人のために働きたい」そう思わせるリーダーは、この3つを兼ね備えたリーダーです。

あなたの周りの、人望の厚い人を思い浮かべてみてください。まさに、3つの面をすべて持っている人物ではないでしょうか。

少なくとも私が見てきた人望厚きリーダーたちは、3つの面をあわせ持っていました。優れたリーダーというのは、どこか怖さを感じる。ですが、それを上回る愛情があるので、とてつもない魅力を周囲に感じさせるのだと思います。
さあ、あなたは、この3つの面で見たら、どの面が強く、どの面が弱いですか? 弱い面が見つかったら、そこを強化すればいいのです。

正面の「理」を強化するには、「言語化」と「理由づけ」が重要です。この面が弱い人は、感覚や感性で仕事をしてしまっており、自分の考えを言葉にしたり、表現したりすることが苦手です。
なぜこの仕事をするのか、この仕事をするとどんな価値があるのか、自分が考えていることを言語化し、仕事の理由づけをする習慣をつける必要があります。
具体的には、「文章を書く」ことを推奨します。
感覚で話す人は、その場の勢いや感情で話を進めてしまうため、言語化がおろそかになってしまいます。
日々の日報や業務報告書など文章を書くときに、これは正面の理を磨くための文章作成なのだと認識して取り組むと、強化されていくと思います。

側面の「情」を強化するには、「関心を示す」「声がけ」が有効です。この面が弱い人は、あまり声がけをしていません。
「仕事の進捗は大丈夫? 何か問題ないかな?」「よく頑張っているね」そういった自分の心境や相手への関心を言葉にしていないので、非情な人と見られてしまうのです。
具体的には、「関心を持つ」ことはアクションにしにくいので、「声がけ」からスタートすることとおすすめします。
部下が今どんな気持ちなのか聞いたり、自分が相手に期待していることを言葉にしたり、関心を持っていたらするだろう言葉を口にすると、部下が生き生きとうれしそうに仕事をしだすことに驚かれると思います。
 上司に関心を持ってもらうことで、部下はモチベーションが急激に高まるのです。
そんな部下の様子を見て、もともと関心が薄かった人でも、徐々に高めていくことができます。

背面の「恐怖」の高め方

この3つの面の中で、強化するのがもっとも難しいのは背面の「恐怖」だと思います。中坊公平さんの3つの面を私が知ったのはもう10年以上前になりますが、この話を教えてくれた方が私にこう言いました。

「高野さんは背面の恐怖が弱いかもしれませんね」

当時コンサルティング会社で8名ほどの部下を率いていた私は、確かに理屈で説明するのはわりと得意で、部下への愛情もそれなりに持つ上司だったのではないかと思います。
しかし、怖さがあったかというと、まったくないリーダーでした。
慕われていると言えば聞こえはいいのですが、悪い点の指摘はほとんどせず、納期を破ったり、約束を守れなかったりしても許してくれる「ゆるいリーダー」だったのです。
なるほど、これが自分に人望がない理由かと得心した私は、背面の恐怖を強化する試みをします。

ところがこれは、まったくうまくいきませんでした。
納期や約束を守れない部下に対して、少し厳しめに注意をしたり、部下の資料のダメ出しを強い口調でやってみたりしました。
すると、「高野さんは優しい人だと思ってたけど、本当はすぐにキレる怖い人なんだ」と見なすようになりました。
人望が上がろうはずがありません。
つまり、恐怖を強くしようとしたら、「正面の恐怖」になってしまったのです。

そこで、改めて人望の厚いリーダーを観察し直してみると、彼らは決して「恐怖」を前面に出していないことに気づきました。
彼らはみな「理」も「情」も強いのですが、それ以上に「志」が強いのです。
絶対に達成する、なんとしてもやり遂げる、この志が強く、その志を「なぜやるのか」という理由づけと、それをおこなうことで皆が成長できるという愛情と情熱、この熱量が高いことによって、「この人の志を応援したい」「この人の志は邪魔できない」「この人を裏切ることはできない」という緊張感を生んでいたのです。
高い志に向かい、まっすぐに進む姿を見て、人はその背面にほのかな恐怖を感じるのです。
背面の恐怖を強化したければ、恐怖を強める必要はありません。志を高め、「理」と「情」だけを強化すれば、「恐怖」はほのかに立ち上っていくのです。

人望はピンチのときに問われる

皆さんは、ピンチのときに、どんな人格でしょうか?
普段は「理」も「情」も「恐怖」もバランスよく持っている人物でも、ピンチに陥ると、人格が崩れてしまいがちです。
たとえば、売上が上がらない、思ったような結果が出ない、他者から批判を受けた、自分が評価されない、プライベートがうまくいっていないなど、ビジネス人生において、いろんなピンチが訪れます。
そんなとき、理由を説明しなくなったり、愛情を示さなかったり、「正面の恐怖」を前面に出してしまったりします。

このとき、部下は「普段のあなた」ではなく、「ピンチのあなた」が本性だととらえます。
したがって、ピンチのときこそ人望が問われていると認識するべきです。
むしろピンチのときは、人望を獲得するチャンスです。
ピンチのときでもブレないあなたを見て、部下はあなたに強い一貫性を感じ、尊敬し、崇拝するようになります。
平常時だけでなく、ピンチのときにはどうか、3つの面と自分を照らし合わせることで、ピンチをチャンスに変えることができるのです。

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

チームづくりの教科書

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高野俊一 /
成績が振るわない。メンバーが互いに無関心で、いっさい協力し合わない。仕事を...
その仕事、部下に任せなさい。

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