私は、コミュニケーションについてのセミナーを主催しはじめた頃、受講後のアンケート用紙にあえて自分の悪口を書いてもらいました。すると、例えば「主旨が分かりにくかった」「話にまとまりがなかった」など、講師として足りない部分のご指摘も多くいただきました。これを実施した理由は、当時はまだあまり講師としての経験が自分になかったので、他の人からダメ出しをしてもらわなければ、何を改善すればいいのか分からなかったからです。
しかし、その意見を整理した私は「この意見の中には、自分が努力すれば変えられるものと、努力しても変えられないものがある」と思ったのです。そこでこう考えました。「自分が変われないことは他人を変えてしまえばいい」と。先述の「主旨がわかりにくかった」「話にまとまりがなかった」などの意見は、セミナーの講師として自分が変わらなくてはいけない問題ですから、そこは自分で改善に取り組みました。しかし、中にはこんな意見もあったのです。
「話している顔がなんとなく怖い」
「厳しそう」
「早口で聴き取りにくい」
などなど……。
これは正直、私にとっては努力で自分を変えられることではありませんでした。そこで次のセミナーからは、
「私は、セミナー中に顔が怖いとよく言われます。それは、みなさんの顔の表情の倍返しをするクセがあるからです。そのため、みなさんが、笑顔で参加してくださいね」
「よく厳しそうと言われますが、私は厳しいですよ。なぜなら、お金を払って私の話を聴きにきてくれていると思うから、しっかりスキルを身につけてほしいためです」
「あと、私は早口です。これは、早口の人の話を聴き取る練習にもしています」
といった感じのことを言うようにしたのです。
これはあくまで講演の前段での笑い話としてですが、実はこうして、自分が変えられない部分に関しては、最初からそれを相手に伝え、相手を変えてしまうのです。「この人はこういう人なのだから、こっちが相手にあわせて変えよう」。そう相手に思ってもらえるようにするのです。これは一見難しそうに聞こえるかもしれませんが、実はそうでもありません。あえて自分の弱みを、笑いを交えて話しておくことで、他人の意識は意外と変えることができるものです。もちろん、何でもかんでもそうしていたら、ただの自分勝手な人です。でも、自分の努力ではどうしようもない部分ぐらいは、他人に甘えてしまいましょう。
“やる気”が出ないことは、ビジネスシーンでも日常にたくさんあります。しかし、そういう時にどう対処すればいいかを知っておくだけでも、少なからず“やる気”を出すキッカケにはなります。そして、今回紹介した「過去と他人は変えられる」というテーマに共通するのは、自分をよく「分析」することです。まずは自分をよく知り、そんな自分の“やる気”を持続させる手段を考えてみましょう。
次回に続く