よく考えてみると、私は幼い頃は友達とけんかをしても、あの兄弟のように何の戸惑いもなく素直に謝り、すぐに仲直りや物事の修復ができていたはずなのです。しかし歳を重ねるにつれて、素直に「ごめんなさい」というひと言を口にするのが難しくなったような気がします。これは、ひょっとしたら私だけではなく、多くの方にも共通することではないでしょうか。
しかし、どうして昔は素直に謝ることができたのに、今はできないのでしょうか。素直に「ごめん」と謝ることができたら、どんなに日々の生活が楽になることでしょうか。
その理由の一つは、「自分だけに好都合なものさし」で物事を見てしまうからだと思います。私たちは、これまで生活してきた中で、楽しいこと、嫌なこと、嬉しいこと、悲しいことなど、さまざまな経験をしてきたはずです。その中で自分にとって好都合となる判断の仕方を試行錯誤して学んできたはずです。これは、素晴らしい能力です。
しかし、別の言い方をすれば、自分をどこまでも中心として考える「ものさし」の構築でもあるのです。つまり、「我執(がしゅう)の増大」です。
だからこそ、何か問題が生じたとき、多くの人はまず自分を守る選択をし、自分に非があったとしても、相手に非があると思い込み、それを貫き通そうとするのです。そこには、きっと薄っぺらなプライド、意地などが入り交じっていることでしょう。これが素直に謝るということを妨害しているのです。結局、私たちは自分で自分の首を絞める癖を身に付けてしまったのかもしれません。
しかし、けんかをしたとき、素直に謝ると気持ちが晴れ、とても気持ちよくなる感覚は誰もが知っているはずです。実は、これが本来私たちのあるべき姿なのです。私たちは本来いつでも晴れやかな気持ちで生活できるのです。もちろんときとして、けんかをしてしまい、穏やかではいれなくなることもあるでしょう。しかし、そのときは素直に謝ればいいのです。
世の中に完璧な人などいません。それは、私も皆さんも同じです。もし今後、誰かとけんかをするようなことがあったとき、相手に絶対的に非があるのではなく、自分にも原因があるという考え方をしてみましょう。実際は気がつかなかっただけで、自分にも必ず非があるものなのです。
ぜひ「自分だけに好都合なものさし」を解体することを意識してみてください。すると、あの兄弟のように、晴れやかですっきりした気持ちになれるはずです。