この例のように、「雰囲気のよさ」を勘違いしている状況は、意外に多いのが実情です。私の仕事では、例えば社内研修中に必要以上にふざけて笑いを取ろうとする受講者がいたり、厳粛さが必要な式典の最中に、やたらと騒いだりする者がいたり、組織の上下関係を必要以上に避けようとする人が確かにいます。状況はさまざまで、少なくとも本人は「雰囲気を和ませる」と思っているかもしれませんが、その場にふさわしくないことは明白です。チームが和気あいあいとしているのは、まったく悪いことではありません。しかし、それがチームの目的やその場の状況に合ったものでなければ、それは「雰囲気のよさ」とはいえないのです。
「雰囲気がいい」といっているチームの中には、本当は厳しく言わなければならないことを言おうとしていない、必要以上にお互いを干渉しない希薄な関係、他人にするべき要求をしない、目標レベルが低い、向上心がない、といった問題が潜んでいることがあります。これは「雰囲気のよさ」ではなく「雰囲気のゆるさ」であって、「雰囲気のよさ」という言葉の意味を履き違えているのです。この状態に慣れてしまうと、ゆるさが心地よくなっていき、いつの間にかそれが当たり前になってしまいます。会社であれば、やはりそういうチームは業績も伸びていません。
本当の意味での「雰囲気のよさ」とは、切磋琢磨、相互尊重、勝ちぐせ、自信、自己肯定といったものがメンバーの身についており、それが自然に湧き出てくるような状態です。特に「雰囲気のよさ」というものは、「雰囲気のゆるさ」と混同しがちです。その違いには、リーダーは十分に注意しなければなりません。
これはあるプロサッカーチームの主将が実践していたことで、「明るさと軽さは紙一重」という話です。このチームは若い選手が多く、選手同士の年齢が近かったことから、いつも仲よく明るい雰囲気でした。しかし、ある大事な大会を直前に控えた時の雰囲気で、このチームの主将は全体の雰囲気から「フワフワしているゆるさ」を感じ、このまま放置しては危ないと考えました。
そこでミーティングを行い、選手の気持ちを一気に引き締めたのです。勝つためには本当の意味で何が必要なのか、チームの一人ひとりがどういった心持ちで試合に臨むべきなのかを明確に提示し、これを徹底させました。その結果、チームはその後の大会では終盤までトーナメント戦を勝ち進み、当初の目標を上回る結果を得ることができたのです。
このように、リーダーはその場に応じた「雰囲気のよさ」を作り出すため、常に状況を見極めて迅速に対処しなければなりません。ただし、ただ厳しく引き締めるばかりでなく、あえてリラックスさせることが必要な時もあります。チームが浮かれている時や沈んでいる時、またはピリピリし過ぎている時やゆるみ過ぎている時など、その時々でチームに必要とされる雰囲気をつくり、その場の状況に合わせて、本当の意味で「いい雰囲気」に変えていかなければなりません。本当の意味で「いい雰囲気」とは、そのチームの目標に対して、最大の効果を発揮できる環境づくりです。リーダーの大きな役目は、この「環境や状況に応じたチームの雰囲気づくり」にほかなりません。
いい結果を得るために必要なのが「雰囲気のよさ」であり、結果が出てこその「雰囲気のよさ」なのです。もちろん「望ましい雰囲気」はその場に応じて変化するので、単に「雰囲気のよさ」という言葉にとらわれ過ぎると、ゆるさや甘さといった方向に流されがちです。一見雰囲気がよさそうでも、そこに結果が伴っていないのであれば、必ず何か問題が潜んでいると考えましょう。これもリーダーに求められる「空気」のつくり方のひとつなのです。
次回に続く