社員成長の決め手は、人事が9割

会社にとって社員とは――? 中小企業が最強の「人事」をつくる上で最も重要な「考え方」

人事部門をつくる前に決めておくべき重要なポイントとは?

社員100人未満の中小企業では、人事部門がないことが多く、経営者が自ら人事を兼務し、人事戦略を立てたり、人事施策を考えたりしています。会社が小さいうちは、それでもあまり問題はないのですが、従業員が増え、会社が大きくなってくると、さまざまな弊害が出てきます。従業員数が300人を超えても社長が自ら人事をやっている会社もありますが、これは非常に危険な状態です。

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社員が100人を超えたら、人事部門を設立しましょう。前回までそのようにお伝えしてきましたが、まずは何から手を付けたらいいのでしょうか?

実は人事部門を設立する前にやっておくべき重要なことがあります。それは会社の「人」に対する考え方を決めておくことです。これは「人事ポリシー」と呼ばれ、どのような組織を目指すのか、社員に求めることは何か、何をすれば評価され、給与が上がるのかなど、会社の経営方針を明文化したものです。

ところが、多くの会社では、この人事ポリシーがありません。あったとしても漠然としていたり、社員は知らなかったり、人事制度や施策に反映されていなかったりします。そのため、人事制度や施策を始めても残念な結果になりがちです。

新卒採用を始めたが、結局全員辞めてしまった。人事制度を入れたら、多くの社員が辞めてしまった。人事施策が裏目に出て、生産性が下がってしまった……。

「何かやらなきゃいけないことはわかるけど、何をしたらいいの?」。そんなときに施策や方法論から入ってしまう会社が多いのですが、重要なのは「やり方」より「考え方」。まずは、会社の「人」に対する考え方を定めましょう。ここがブレていると、人事部門を設立しても「人」に関する問題は解決しないのです。

社員の何を評価し、何に対して給与を払いますか?

会社の「人」に対する考え方=人事ポリシーは、多岐にわたります。たとえば、社員の何を評価し、何に対して給与を払うのか。直近の成果に対して払うのか、現在の行動に対して払うのか、その人の潜在的な能力に対して払うのか。近年注目されているジョブ型は、仕事の重さに対して給与を払うという考え方です。

もしくは、年齢に対して払うのか、勤続年数に対して払うのか、年功などの過去を評価して払うのか。この「考え方」によって、評価制度、給与制度、等級制度などの人事制度=「やり方」が大きく変わってきます。

人事という分野は、実は多くの失敗を繰り返してきました。日本では長らく「年功序列」「終身雇用」「新卒一括採用」などの“日本型雇用慣行”と呼ばれる「やり方」を続けてきましたが、バブル崩壊後は、これらを続けるのが難しくなってきました。

そのため90年代には、「成果主義」「年俸制」「ジョブ型」などの施策が次々と試行されましたが、多くの問題が浮き彫りとなり、撤廃する企業が相次ぎました。これらの失敗の原因は、「欧米ではそうやっているから」「他社がそうしているから」「新聞に出ていたから」と、場当たり的に「やり方」から入ってしまったからです。

米国のPR会社エルデマン・トラストバロメーターが毎年行っている調査があります。そこでの「あなたはあなたが働いている会社を信頼していますか?」という問いに対して、否定的な答えをした人の割合が、2016年の調査で日本は最下位になりました。2022年も韓国に続いてワースト2位です。

新しい「やり方」を導入しては、「やっぱりやめます」を繰り返しているうちに、社員からの会社への信頼は地に堕ちてしまったのです。これから人事部門を立ち上げる企業の皆さんには、このような結果になってほしくありません。だからこそ、「やり方」よりも「考え方」をまずはしっかりさせてほしいのです。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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