中小企業の皆さん、従業員が100人を超えても、社長が人事のあらゆる職務を兼務しているとしたら、要注意です。300人以上になっても、人事戦略や人事企画を社長が自ら考えているとしたら、本当に危険です。
前回そのようにお伝えしましたが、では、具体的にはどうしたらいいのでしょうか? 理想としては、従業員が100人に至ったら、人事部長を任命し、社長が人事のすべてを仕切っている状態から脱却することが必要です。
ただ、これは簡単ではありません。というのも、人事戦略や人事企画を考え、また、等級制度や評価制度、給与制度などをつくるためには、人事の経験が不可欠です。それまで人事部門がなかった企業では、そういうスキルを持った人材が育っていません。
ある企業では、営業の現場で活躍していた人材を人事部長に抜擢しましたが、人事のことが全然わかりませんでした。「若い社員が多いからリゾート施設で合宿してモチベーションを上げよう」とか「表彰式などのイベントを盛り上げよう」といった「おもしろ人事」の企画はできるのですが、人事制度づくりなどでは失敗の連続。
ある企業では、採用に長けた人材を人事部長に任命しましたが、わかるのは採用に関することだけ。人事というのは、採用だけでなく、その後の育成や教育、制度づくり、労務問題対応など、さまざまな職務があります。その企業では採用以外の施策で失敗が続き、離職者が続出しました。このようなケースが多くの企業で見られます。
では、人事経験が豊富な人材を採用して人事部長にするのはどうでしょうか?
優秀な人材を採用できれば、それがベストですが、ひとつ大きな問題があります。
経験豊富で優秀な人事部長を採用するとなると、年収1000万円以上は必要となります。従業員100人未満の中小企業で、年収1000万円の人事部長を採用するかといったら、まず採らないですよね。だから、この問題は難しいのです。
人事部長を社内から抜擢することも、社外から採用することも難しいとなると、どうしたらいいのでしょうか。大丈夫です。方法はいくつかあります。
人事部門を立ちあげるにあたって、まず大事なのは「ゼロポイント」をつくること。ゼロポイントとは、基幹的な人事機能がしっかりできたね、という状態です。
上記の図の「ベタな人事」と「ベタベタな人事」がゼロポイントに当たります。人事の基盤となる部分さえしっかり築ければ、人事経験のない人を人事部長に据えても何とかなります。現場のエースを人事部長にして「おもしろ人事」を考えてもらったり、社長のお気に入りを人事部長にして経営の右腕として活躍してもらえばいいのです。
ただ、このゼロポイントまでは、人事のことをよくわかっている人につくってもらう必要があります。ですから、ここは外部の力を借りることをおすすめします。
人事部長を中途採用することは難しくても、自社の人事をやりながら副業として他社の人事を手伝っている人や、人事経験者のフリーランス、あるいは私のような人事コンサルタントもいます。また、近年では顧問紹介の会社なども増えてきました。
副業、業務委託、フリーランス、顧問、このような人事経験者の力を借りて、ゼロポイントまで構築することができれば、あとは社内のことをよくわかっている人材を抜擢して、どんどんその会社らしい人事をやっていけばいいのです。
人事経験者を採用し人事部長にしようと思っても年収1000万円を払うことは難しいでしょうし、払う必要もありません。自社の社員にすべて任せようとするよりは、外部の力を借りるほうが、コスト的にも、時間的にも間違いがないと思います。