人事の超プロが教える、リストラ時代を生き抜く戦略

空前の早期・希望退職時代、自己の「能力」「評価」の分析ができない人から落ちていく

会社から退職を促された場合の4つの選択肢

希望退職や早期退職を促された場合、考えられる選択肢は4つあります。

①退職を拒否して、評価や給与が下がっても定年まで耐え忍ぶ
②退職を拒否して、給与に見合ったパフォーマンスを発揮し、自身の評価を変える
③退職を拒否して、転職や独立・起業の準備をする
④退職金をもらい、転職や独立・起業をして第二の人生を歩む

①は、つらいです。50代後半の方なら定年まであと数年ですから何とか耐えられるかもしれませんが、50代前半、もしくは40代の方には厳しいでしょう。

となると、取るべき選択肢は②〜④です。②を選ぶなら、まずは上司や周囲の人々に自分の何がダメだったのかを確かめ、改めるべきことは改め、行動として示す。「あの人、変わったよね」「良くなったよね」と言われるようにパフォーマンスを上げ、給与分の仕事をすれば、何の問題もありません。

③や④を選ぶなら、自分にできることは何か、他社に買ってもらえるスキルは何か、自分のキャリアを振り返って棚卸しをしておくことが重要です。

「自分が売れるものは何か」を見極める

私が人事部長をしていた頃、大企業で総務をやっていた方が希望退職に応募し転職の面接に来たことがありました。上場企業でしたから「株主総会の経験はありますか」と聞くと「ないです」。「事務品の購買経験はありますか」と聞くと「ないです」。「オフィスレイアウトの経験は?」と聞いても「ないです」。「では何をされていたんですか」と尋ねてみると、「〇〇グループの会議体の事務局をやっていました」と。

申し訳ないですが、それは世の中ではまったく通用しない力です。他社で働こうと思うのなら、会議体のファシリテートをしていた経験を外でも通用するスキルにしておかなくてはいけません。会議体を収拾するには、何か特別な力が必要なのか。会議を効率よく運営するには、気持ち良く進行させるのは何が必要なのか。そういうことを体系化して、「会議のプロ」として売れるかどうかを見極めておくのです。

それがなくて「年収700万円ください」と言われても無理です。300万円でも買ってくれる会社はないでしょう。その方には「まずは他社の仕事もできるかどうか、自分のスキルを棚卸ししてみてください」とお伝えしました。

これはどんな職種でも一緒です。自分がやってきた仕事は、他社でも通用するのか、どこでも活かせるように体系化できているのか。こうした観点で自分を見つめ直しておかないと転職は難しいです。たとえ採用されても、成功する確率はかなり低いです。

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転職経験がある人は「俺って他社では通用しないんだ」「意外とイケてないんだ」という経験を一回していますから、その難しさを理解されていることでしょう。転職経験がない人は、このことについて特に理解しておかなければいけません。

年収800万円だったら、400万円の若手の倍のパフォーマンスを出しているのか。年収800万円で他社に買ってもらうためには何が必要なのか。

②〜④の選択肢で必要となるものは、実は一緒です。年収800万円の人が、年収800万円分の仕事をしていれば、誰も文句は言いません。希望退職を促したりもしません。他社に対しても、年収800万円で自分を売ることができます。

自分のパフォーマンスは、現在の給与に見合っているのか。それをしっかり考えることが、リストラ時代を生き抜くためのいちばんの戦略です。自分は何ができるのか、売れるのは何か、人に対して価値が提供できるものは何か、人に喜んでもらえるものは何か。今すぐにでも棚卸しを始めて、来たるべきときに備えてください。

次回につづく

 

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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