コロナ禍以前から増えてきた、45歳以上の早期退職・希望退職という名のリストラ。その候補となっているのは、パフォーマンスより年収が高い人です。それはどういうことなのか、詳しく説明しましょう。
年功序列の企業では、勤続年数が長い人ほど給与が高くなります。40代から50代は、最も給与水準が高くなる層です。もちろん年収1000万円の人が1000万円の価値を出しているのであれば、何の問題もありません。給与とパフォーマンスが一致していれば、45歳でも50歳でもリストラされることはありません。
ところが、年功序列の企業では、実力とは関係なく、ただ会社に長くいるだけで、給与が自動的に上がっていきます。すると、どうなるのでしょうか?
年収1000万円をもらっているのに、400万円の価値しか出していない。そういう人たちが増えていきます。そのうえ、40代・50代は、人口のボリュームゾーンです。最も人数が多い世代に、最も高い給料を出していたら会社は潰れてしまいます。
パフォーマンスに見合わない、高い給料をもらっている中高年が多い。これが近年、企業の重石となってきたのです。
「じゃあ、その人たちの給料を下げればいいじゃん」
そう思う人もいるでしょう。そうなんです。400万円の価値しか出していないのなら、年収も400万円にすればいい。年功序列をやめて、価値に応じた給料にすればいい。それだけの話です。なにもリストラする必要なんてないのです。
実際、年を取ったら給与が高くなる「後払い」の制度を廃止して、成果や行動に応じた「時価払い」の制度にする企業が増えています。年功序列については、給与だけでなく、現在はあらゆる場面における弊害が指摘されています。グローバル化、外国人の活用、テレワーク、DX、同一労働同一賃金など、近年の潮流とも合い入れません。
しかし、多くの企業はそれができません。長く続いてきたシステムを変えるには、時間も手間もかかります。だったらリストラしたほうが手っ取り早い。だから45歳以上の早期退職・希望退職を募り、中高年をリストラする企業が増えているのです。
さらに、もうひとつ困った問題があります。それは「給与とパフォーマンスが一致しているかどうか」を、本人が自覚するのは難しいことです。
リストラ候補は、「人事評価が低い人」だけではありません。標準評価がAだとしたら、B評価・C評価の人だけでなく、A評価の人たちもリストラされています。
企業取材を精力的に行い、『非情の常時リストラ』(文春新書)で2013年度日本労働ペンクラブ賞を受賞した人事ジャーナリストの溝上憲文さんによると、大手や老舗企業では、A評価をもらっているのに肩叩きにあっている人が非常に多いといいます。
標準より低いB評価・C評価の人なら「頑張らないとリストラされてしまうかも」と、ある程度の覚悟はできているでしょう。でもA評価の人たちは「自分は評価されているんだ」「優秀なんだ」「会社に貢献しているんだ」と人事評価を信じています。それなのに、いきなり肩を叩かれ、クビを斬られてしまうのです。
理不尽な仕打ちにショックを受け、心のケアから始めなければ再スタートできない人が、とても多いといいます。なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか?
大変残念なことですが、実は人事評価を厳密に行っている会社は多くないのです。評価基準も明確ではなく、上司の好き嫌いを含んだ主観的な評価を行っている会社がほとんど。改善点をきちんと指摘するフィードバックがなされている会社もごくわずかです。
納得できる評価制度が整った企業は、日本の会社全体の1割程度。上場企業でようやく3分の1。それが私の実感です。「給料とパフォーマンスが合っていないから、〇〇を改善してください」。もしそう言ってくれる上司がいるなら、とてもいい会社です。
厳しい指摘をしたら仲良く働けなくなるから、なあなあで評価して、いざとなったらリストラ。そういう会社が一般的なのです。
こんな状況を少しでも改善したい、評価基準を明確にし、適切なフィードバックを行い、成果や行動に応じた給与制度にして、不幸を生むリストラを減らしたい。私が人事コンサルタントとして起業を志したのも、そんな危機感を持ったからでした。
45歳以上の希望退職・早期退職でリストラされてしまった人は、古い体質の人事制度を見直してこなかった日本社会の犠牲者ともいえるのです。
最近は年功序列を廃止する企業も増えてきましたが、社会全体が変わるには、まだまだ時間がかかります。45歳以上の人たちは、リストラされないように、あるいはリストラされても、しっかりと生きていけるように自衛策を講じる必要があります。
たとえ人事評価が高くても、真に受けてはいけません。高い評価をもらっていても、リストラされることはあるのです。