人事は『老害社員』と『経験値が高い社員』をどのように判断しているのか。
今回は、そんなテーマについて掘り下げたいと思います。
中高年の会社員の処遇は、日本企業が直面している大きな問題のひとつです。私自身も、さまざまな会社から以下のような相談を受けることが増えてきました。
「仕事をしない年上の部下に困っています。注意しても聞いてくれないし、行動も変わらない。何を言っても響かないので、言うだけムダ。暖簾(のれん)に腕押し、馬の耳に念仏なので疲れました。50代半ばを過ぎたら、定年まであとわずか。ひたすら逃げ切りを待っているだけです。こういう社員にはどう接したらいいのでしょうか?」
昨年11月、朝日新聞に掲載された「朝の妖精さん」という記事も大きな反響を呼びました。妖精さんといっても、みんなから愛される可愛らしい存在、ではありません。
朝はきっちり出社するけれど、いつの間にか姿が見えなくなっている。こうした定年間近のシニア社員を揶揄(やゆ)して呼んだもの。要は「働かない中高年」です。
これ以上がんばっても、もう出世はしないし、がんばったところでさして変わりない。毎月給料をもらって、とにかく逃げ切って、まあまあ平和に暮らしていければいい。
私はこうした、ひたすら「逃げ切り」を狙っている中高年の社員が、まさに「老害」だと考えています。
一方で、団塊ジュニア世代のベテラン社員がいなくなることによって、スキルの継承がなされなくなり、組織の中でスキルが空洞化してしまう問題も起こっています。
「老害」と呼ばれるやる気のない人たちもいれば、現在なお成果を出し、かつ伝承すべきスキルを持った中高年の社員もいる。後者のように、自分の強みを自覚し、技能や経験、人脈などの継承を積極的に行っている人が「老害」ではない「経験値が高い社員」です。
人事もそれはわかっていますから、経験値が高い社員には、専門職制度を設けたり、マイスターという称号を与えるなど、プロフェッショナルとして重用(ちょうよう)していく施策を行っています。ですが「働かない中高年」に関しては、なかなか抜本的な手が打てないのが現状です。
なぜなら給料を多少下げても、そういう人たちは会社を辞めません。再就職するのは厳しいうえに、たとえできても給料が下がる。だったら「妖精さん」になって居座るしかない。
そのうえ、企業には定年後の再雇用が義務づけられています。現在50代の社員が定年になる頃には希望者全員が65歳まで働けるようになります。政府は「人生100年時代」「一億総活躍」を提唱していますから、いずれは70代まで働けるようになるでしょう。
働く当事者にとっては必ずしも悪い話ではありませんが、企業にとっては深刻な問題です。高齢化した社員みんなに高額な給与を払い続けていったら、経営は破綻します。
給料を下げればやる気も下がり、さらに老害化が進みます。それでも20代の社員より給料が高いことが多いため、若手のモチベーションも下がります。社員全体の志気が下がれば、当然業績も悪化します。こうした負の連鎖がずっと続いていく可能性があるのです。