中小企業を今後さらに発展させていくには、2つのことが大切です。
1つ目は、「技術と市場」で多角化を考えること。
2つ目は、市場の主導権を握ることです。これは差別化の視点を持つことともいえます。
まずは冒頭1つ目の、隣接異業種で多角化の可能性を見つけることです。多角化を考えるときは、自社の周辺事業を水平思考してください。水平思考とは、広く浅く周囲を探索することです。そして、周辺事業において、自社のコアコンピタンス(自社の競争力となる強み)が生かせる分野を見つけるのです。
多角化を考えるためには、技術と市場の2つの多角化軸で考えます。そして技術と市場の既存と新規で考えます。つまり、「既存技術」「新規技術」「既存市場」「新規市場」の4つになります。この4つの組み合わせで多角化を考えます。
「既存技術と既存市場」を軸にするのが、市場浸透です。これは多角化というよりは、既存事業の深さを出すことです。
「既存技術と新規市場」を軸にするのが、新商品開発や新規事業開発です。
「新規技術と既存市場」を軸にするのは、顧客開拓(特に国内)、市場開拓(特に国外)です。
しかしどちらも新規、つまり「新規市場と新規技術」を多角化軸にすると、冒頭2つ目の、市場の主導権を握ることが難しくなります。未知の領域に入ってしまい、コアコンピタンスを活かせないのです。
市場の主導権を握るには差別化が大切です。差別化という言葉を聞くと、多くの方は、製品の差別化ばかりに目がいきがちです。しかし、製品の差別化を考えるだけでは全く不十分です。販売方式、立地、サービス、情報、営業時間帯、広告やマーケティングなど、多くの差別化があります。
パソコンの「DELL」のようにファブレス(工場を持たない製造業)化するのは、生産方式の差別化です。「アマゾン」のように在庫を持たない差別化もあります。また、ワンストップソリューションのように、「全てお任せください」という差別化もあります。差別化を広く捉えて、ビジネスのあり方を改革するのです。
※(注)ワンストップソリューション=1つの窓口で全ての問題解決を提供すること
差別化ができると、価格主導権を取ることができ、安売り競争から逃れられます。これはきわめて大きなメリットです。安くしないと売れないという妄想を捨て、コアコンピタンスを生かした差別化に集中しましょう。極端にいえば「中小企業は、差別化ができず主導権を握れないなら、自社の存在価値がない」というところまで突き詰めて考えていいと思います。
事業拡大における具体的な注意点は、1つに絞りましょう。
それは、サービス売上を上げることです。サービスとは、ソフトウェアも含めた無形の商品です。
ハードウェア(有形の商品)はすでに供給過剰で売上に限界があり、生産には多くのコストがかかります。それに対してサービスは、潜在需要を発掘しやすく、材料費も安くすみます。たとえば修理は、500円の部品交換で1万円の修理代を得ることは容易です。サービス提供は、高粗利率を得ることが可能なのです。
サービスは無形の商品です。リース方式の導入や、メンテナンスで利益を上げるといったことが考えられます。
たとえば、エレベーターのメンテナンス会社だとします。売上拡大には、エレベーターだけでなく、「ビル丸ごとのソリューション」で稼ぐことを考えます。例を挙げるとすると、守衛の配置・監視システムなどのセキュリティ、カードリーダーなどの入退室管理、さらには清掃、LED化による電気代改善などを、トータルでソリューション提案するのです。契約書は1本、あとは全てビル丸ごとお任せのトータルサービス、つまり、ワンストップソリューションです。
情報サービスであれば、データベースや、電子カルテのような情報マネジメント、ネットサービスなどがあります。ゲームセンターに行かなくても、自宅のパソコンでクレーンゲームをできるサービスもあります。実物のクレーンゲーム機は、遠隔地の倉庫に設置されています。ゲーム機をネットで操作して景品を得ます。手に入れた景品は現地の担当者が宅配手配してくれるというサービスです。24時間営業で、これもネットを活用したサービスの1つです。これはまさに、既存のビジネスにインターネットをプラスすることで、新しいサービスを生み出しています。
すでにある既存のものを活かして、それにひと手間加えて、自社のコアコンピタンスを活かせる新しいサービスを探すことも大切です。
伸びる会社の社長の条件は、3つの質問に答えることで明らかになると思います。
1つ目は「過去3年を振り返って、何が変化しましたか?」という問いに、できるだけ多く列挙してください。
2つ目は「3年後、あなたの会社はどうなっていますか?」という問いに即答できますか?
3つ目は「アイデア出しは全員参加。決まったことは文句を言わずにやる社風」がありますか? なお、総論賛成・各論反対は論外です。
冒頭1つ目の「過去3年の変化」では、事業つまり事業領域や事業形態のビフォーア&アフター(3年前と現在)を比べます。同時に売上やコスト体質も比べて、「新しい取引先が増えた」「新規ビジネスをはじめた」「サービス売上が増えた」といった変化がほとんどない場合、経営に戦略がないと考えられます。一歩譲って、5年前との比較でもかまいません。
3年間の変化がスラスラ言えない社長は反省して下さい。現状の延長線上で考えるのは戦術にすぎません。社長は「戦略」を考えるべきです。たとえば、先行投資の資源配分を変えれば、何か変化が起こるはずなのです。
冒頭2つ目の「現状と比べて3年後、あなたの会社はどうなっていますか?」です。既存の事業の発展もありますが、新規分野での発展もあるはずです。一部の分野で、撤退もあるかもしれません。
撤退は、悪いことではありません。変化に目をつむって、現状維持から抜け出せないことの方が悪いことなのです。撤退は勇気ある意思決定です。
今のビジネスだけでは、いずれ売上が衰退するか、利益が出なくなります。つまり、新しい一手を打ち続けなければ、必ずジリ貧になるのです。
現状維持に終始して、新しい一手を継続しなければ、やがて限りないリストラがはじまるでしょう。3年後のあるべき姿を描いてみましょう。そしてそのために何をすべきかを考えるのです。
変化が起きてから対応していては間に合いません。特に中小企業は、変化を先取りすることが大切です。そのサイクルは、IT系企業であれば3ヵ月、それ以外の一般企業は半年~1年が目安になります。
ただし、半年から1年でやれることは戦術レベルであり、すぐに他社にマネされます。よって、3年くらいかかる経営改革や新規ビジネスを「戦略レベル」で考えるのです。
変化の早い現代では、「社長を1年やった」のは「4年やった」のと同じという認識を持ちましょう。社長を3年やったら、12年やったのと同じ。自社の経営が変化しないのがおかしいのです。
中小企業には有利な点もあります。大企業のようなピラミッド型命令系統組織ではない会社が多いことです。社長がその気になれば、機動力を発揮でき、小回りが効きます。
また情報の共有化も、大企業に比べて容易です。
戦略レベルでは、トップダウンが不可欠です。しかし、戦術レベルでアイデアを出すためには、社長1人の知恵では不足です。全社員の英知を集めるのです。
たとえば、障害にぶつかったとき、関係者全員で解決策を自由に出し合うのです。それも無礼講で。十分に解決策を出してから、社長は最終的に意思決定します。
社長が最終決断を下したら、全員で「Not agree, but commitment」という態度で臨みます。「賛成(agree)はできないが、決まった以上、実行を約束(commitment)する」という意味です。「Not agree, but commitment」の正反対である「総論賛成・各論反対」はここでは論外です。
現代は戦国時代であり、中小企業は生きるか死ぬかの窮地にあります。日本の戦国時代には、「Not agree, but commitment」が実践されていたようです。生きるか死ぬかの状況下では、「解決策のアイデア出しは全員参加」「決まったことは文句を言わずにやろう」という社風のある会社が伸びていくのです。これが冒頭3つめの質問になります。
「Not agree, but commitment」の社風をつくるのは、社長の役目です。「総論賛成・各論反対」では、多くの会社が現状維持に陥ってしまい、変化に対応できずに事業が陳腐化してしまいます。
クレームや事故などの悪い事実もきちんと集めて、事実を社員と共有化し、解決策のアイデアに対して社員の英知を出してもらいましょう。
1人では経営はできません。また、社長や管理職のアイデアが常にいいとは限りません。解決策は、変化を現場で知っている、若い人のアイデアを吸い上げることです。社員が本音で話せる企業風土をめざしましょう。ときには耳が痛い批判などにも耳を傾けましょう。社長は妙なプライドを捨てることで、アイデアをキャッチするアンテナの感度が鋭くなります。
いまや「世界の工場」の地位はアジア諸国に奪われており、もう日本は世界の工場の地位を失っています。よって、サービスやアイデアの重要性が高まっているのです。
英知が集まる社風、決まったら必ずやる社風をつくれる社長が、会社を永続的に発展させていくのです。