やがて、全員のプレゼンテーションが終了。自分以外の参加者の作品への思いを聞くことができ、とても貴重で刺激的な時間でした。
その後審査員の方々が、13名の若き創り手の誰に来年の展覧会の切符を渡すのかを考え、投票用紙に記入していきました。そしてスタッフによって用紙が集められ、そこに書かれた名前がひとつずつ読み上げられます。
「では開票します……石田徹也さん、成田久さん、石黒亜矢子さん、石田徹也さん、成田久さん……」
え? 僕の名前が呼ばれてる? マジで!? 他の参加者に混じって、自分の名がちらほらと聞こえました。
わ! 嬉しい! こうなると現金なもので、一気に心境も変わります。ここまで来たら、グランプリをGET!したい! 大学4年になる来年に、どうしても展覧会を開催したい! と強く願いました。
そして、多くの票を集めた石田くん・石黒さん・僕の3人で再審査となり、その結果……石田くんと僕が同率1位で並びました。
会場の熱気は最高潮。審査員の皆さんもテンションが上がっている様子です。審査員の1人、浅葉克己さんは「さて、どうするか? まったく違うタイプの2人です。どちらをグランプリにするか? こうなったらいっそ朝まで話し合いましょうか?」と興奮気味におっしゃいました。
石田くんと僕の一騎打ち! もう名作漫画「ガラスの仮面」で紅天女役を争う北島マヤと姫川亜弓のような状況です。どうしても展覧会をしたい! したい! 負けたくない! 作品を発表したい!
審査員たちはしばらく熱い議論を交わし続けていましたが、やがて、こんな声が飛び出します。「せっかくだし、会期を2回に分けて展覧会させてあげるっていうのはダメかな? ガーディアン・ガーデンの事務局様、初の試みだと思うけど、2人にグランプリをダブル受賞させるのはどうでしょうか? この2人なら、来年の展覧会を実りあるものにしてくれるはずです。僕はどちらの展覧会も見てみたいですね」
過去に例がないらしく事務局の方々はとても驚いていましたが、未来ある僕らのためにと、最終的にグランプリを2人に授与することに決定しました。
わー! めっちゃ嬉しい!!! 初応募で参加できて、しかもグランプリだなんて。来年にはガーディアン・ガーデンプロデュースで企画展ができるんだ! 本当に嬉しい! とガッツポーズ★★★ ともに受賞した石田くんと受賞スピーチをし、審査会は終了に。たくさんの友人たちからも、祝いの言葉をいただきました。
このとき、大学3年の秋でした。受賞特典である「第6回『ひとつぼ展』グラフィックアート部門受賞展覧会」は、来年の11月です。つまり制作期間は約1年。いざ! クリエイトに挑みます。
今回のイベントに臨む前、春にアルバイトで資金を貯め、自主プロデュースで銀座の貸ギャラリーでの個展を企画・実施していました。そこから4ヶ月後に、この『ひとつぼ展』に参加、さらにグランプリを受賞して次の企画展の切符をGETできたことを、本当に嬉しく思います。
さて、『ひとつぼ展』が終わると、休む間もなく大学の学部コンクールがあり、4年生になると大作である「卒業制作」に掛かりきりになります。さらに僕は、東京藝術大学大学院への進学を目指していたので、これからの1年のクリエイション活動は多忙をきわめると覚悟していました。
そんな多忙な1年間に、僕は3つの目標を掲げます。『ひとつぼ展』グランプリ受賞者展覧会の成功、卒業制作を仕上げて学部TOPの成績で卒業、東京藝術大学大学院デザイン科合格、です。すべて完璧に達成したい❤ でも、どれか1つ選べと言われたら、それは展覧会成功でした。
展覧会のタイトルは『ぴとぴとぴと』展。その構想はすでに固まっていました。春に制作を始めた「人物シリーズ」を増やし、ガーディアン・ガーデンの空間一面にさまざまな人物を登場させてビジュアルインスタレーションするというものです。この時点でボーカリスト、コック、泳ぐひと、消防士、着物姿のひと、ウェイトレス、ランドセルの小学生……などなど、20人以上を描きたいと考えていました。
展覧会に向けた制作は、下地作りからこだわった、時間のかかる作業工程で行なうつもりでした。そのためまず詳細な制作スケジュールを立てることに。同じカラーのものを1つも創りたくなかったので、全体構成のイメージをラフ画で考えたうえで、1年におよぶ制作をスタートしました。こうして、クリエイションが中心となる生活が始まります。
3年の秋、大学の染織科ではオリジナルファブリックの制作に取りかかっていました。その頃すでに「人に装わせる作品」としてファブリックでのコスチューム作品も創り始めていて、世に発表はしていなかったものの、大学の同級生・フォトグラファーの蜷川実花ちゃんに撮影してもらい、ビジュアル表現もしていました。
秋と冬が過ぎ――4年生の春を迎え、やがて夏も終わり……『ひとつぼ展』受賞者展示会の日が迫ってきました。アトリエには作品がいくつも重なり、月日の流れは“筆跡”として作品群の上に溢れていました。
そして1996年10月、『ぴとぴとぴと』展の開幕です。多くのお客様にご来場いただき、多くの反響を頂戴しました。ガーディアン・ガーデンの広報プレスの方々にも非常に親切にしていただき、展覧会は大成功です。自分に喝を入れながらクリエイションに励む、制作づくめの、実り多き1年でありました。関係者の皆様、本当にありがとうございました。