やがて迎えた当日、作品搬入は後輩に手伝ってもらい、車に積んでガーディアン・ガーデンへ持ち込みます。作品2点を運び込み、梱包をほどき、展示する壁面のサイズ、設置する間を読み、計り、釘を打って作品をかけていきます。一度壁から離れて遠くから作品を眺め、左右のバランスなどの調整を何度か繰り返し、ようやく完成❤素敵な展示になりました。
この間、わずか15分。同じく出展する人たちは、作品レイアウトの調整に奮闘中です。「ま、2点だけだもんな~」とちょっと自嘲気味な気持ちで、僕はその場をあとにしました。
そしてついに――『第6回ひとつぼ展 グラフィックアート部門』が開幕。出展した創り手は全部で13人です。出展者の中には知っている顔もちらほらありました。当時はコンペティション花盛りの頃で、若手アーティスト向けのイベントが盛んに行なわれていた時代。JACA日本ビジュアルアート展やアーバーナート展など、若手アーティストを応援する企業主催のコンペティションが本当にたくさん開かれていました。
その中でもこの『ひとつぼ展』は、いくつかの点で画期的でした。まず、さきほども述べたように、出展希望者は今まで制作してきた作品群をポートフォリオとして提出する必要があります。過去の制作経緯を見せることで、一発屋ではなく、一定の経験と実績、そして情熱を持っていることを認められなければいけないのです。
また、これも前に触れたとおり、出展者は「一坪」という限られたスペースの中でどれほどの表現ができるかを考えなければなりません。それも1日2日ではなく、数週間もの期間、一般のオーディエンスに公開できるクオリティで。若き創り手に対し、非常にチャレンジングな挑戦の場を与えてくれていたのです。
さらに僕がもっとも惹きつけられたのは、第一線でバリバリ活躍されているプロの方々を審査員として、彼らの前で出展者が1人ずつ作品とグランプリ受賞後の展覧会プランをプレゼンする「審査会」があることでした。審査員に自作の制作意図や経緯を伝えられるなんて、とてもラッキー★な機会です。作品の展示にとどまらず、創り手の想いを、言葉で表現するチャンスを与えられている点が非常に嬉しく思いました。
当時在籍していた多摩美術大学染織科では、ちょうど僕の代から、2年次にプレゼンテーションの授業が実験的に導入されていました。教授を務めるテキスタイルデザイナー・粟辻博先生が、「染織科は他の科と比べてプレゼン能力が低い」と感じ、必須科目としたのです。そして粟辻先生の親友であるグラフィック界の巨匠・田中一光先生がいまして、その一光先生の愛弟子である秋田寛先生(僕は寛ちゃんと呼んでいました)が、このプレゼンクラスの特別講師となります。
授業のある日、秋田先生はいつもイカす車を飛ばして山奥にある八王子キャンパスへ颯爽と現れました。若くバリバリな雰囲気でノリに乗った秋田先生は気持ちのいい方で、かつプロフェッショナル。非常にHAPPYでクールな存在でした。授業は週1回ながら、多忙な先生は時々来られず休講になることも。しかし現役として活躍しているプロ中のプロの授業はとても面白く、楽しく、MAX厳しくもある素晴らしいものでした。
「この意味はなんだ? 意図することはなんだ? 仮定・想定で話すな! 断定的にしっかり示せ! やりきれ!」
半端なプレゼンをするたび、先生のそんな言葉が飛んできます。でも僕は、リアルにグラフィックデザイナーとして報酬を得ている先生を目の当たりにして、「めちゃくちゃカッコいい!」と感じていました。20代前半の僕はクリエイションへの思いをどんどんぶつけていきましたが、先生はいつでもそれを受けとめてくれたものです。
この授業を通じて、プレゼンテーション、つまり自分なりの考えや意思の伝え方を学びました。おかげで人前でも臆することなく話し、想いを語ることができるようになりました。自分の意見、主張を、強い意思を持って力づよく誠実に話す姿は聴く人の❤をつかむ……そんな大切なことを、僕は秋田先生から教わったのです。
このような経験を経て挑戦した『ひとつぼ展』ですから、グランプリへのプレゼンテーションはいわば腕試し。もう! 好き勝手にシンプルに、作品への思いのたけを熱く伝えるのみです。いざ! 挑みます!!! さ、グランプリプレゼン★★★へレッツゴー!
つづく。
本連載が書籍に? 資生堂アートディレクター成田久氏が、銀座一丁目の森岡書店にて「ププププレゼン力」展を開催中! 2017年12月19日(火)~28日(木)まで。詳細はこちら