職業柄、ときどき作家デビューを志す人から相談を受けることがある。そうした相談の中に、稀にいついつまでに出版したいとゴールを決めているケースもある。ゴール設定の理由は、その日が自分の誕生日だからという軽いものから、その時期にコンサルタント会社を立ち上げるという、事業計画的なものなどさまざまだった。上場のIRのために出版するには、この時期が限界という話もあった。差し迫った事情としては、私は関与しなかったが、選挙のためにどうしても2ヵ月で出版しなければならないという、切羽詰った立候補者もいた。
2ヵ月で本をつくることは不可能ではない。テーマによっては早い者勝ちというものがある。ビジネス書では、税法や商法、民法の改正や新法の施行などが、その種のテーマのひとつとなる。具体的にいえば、数年前の相続税法の大幅改正などがそうで、本をつくればある程度の売れ行きが見込めた。出版社は売れることがわかっていれば、短期間でも本をつくる。相続税法の改正では事情が違ったが、一般的なケースでは法改正や新法の制定は、国会で法案が可決されないことには話が進まない。
ところが、世間の注目の的になるような話題性のある重要法案は、ぎりぎりまで細部が固まらないことがある。そういうケースでは、国会で法案が可決されるまで原稿が完成しないことになるが、多くの場合、90%以上の原稿はそこまでに仕上げており、可決案に応じて書き加え完成させる。
出版のスケジュールで、最も時間を要するのは原稿作成のプロセスであるから、ここが各社の競争のしどころとなる。このような段取りで進行すれば、1ヵ月後の出版であっても不可能ではない。新聞や雑誌のように予定稿を組むことまではしないが、単行本でもそれに近いことはすることがあるのだ。ただし、そこまでやるのは、かなりの確度でセールスが成り立つという見込みがあってのことである。
作家デビューを考えている人が、ゴールを設定するのは悪いことではない。ゴールを定めれば、それまでにやるべきことも見えてくるからだ。数値化できることは実行できるという。実行があれば実現にも近づく。
そういうわけで、出版の時期を設定するのはよい。しかし、わたしの見るところでは、ほとんどの人が出版時期を3ヵ月後くらいに設定している。出版の相談を受けた段階では、それがどんなによい企画であっても、まだ企画立案の段階である。この段階から起算していけば、通常の出版社のペースでは最短でも本の発行は半年後となる。
2ヵ月で出版することは不可能ではないといっても、それはいわば緊急出版のスケジュールである。作家デビューの新人さんの作品は、残念ながら、よほどのことがない限り緊急出版とはならない。したがって、通常のペースで進行していくのが一般的である。
では、出版までにはどのようなプロセスを経て、それぞれのプロセスにはどれくらいの時間がかかるのだろうか。